/?作品化石のうたをきかせて>HUGH

○空を飛びたかった。世界をつかみたかったんだ。○

 10歳ぐらいのころ、俺は感情的な子供だった。なぜかイライラして、しょっちゅう周りに突っかかってた。俺の家庭はごく普通で、親もしっかりしてたし、別に問題はなかったと思う。周りは反抗期だといっていたから自分でもそう思ってたけど、それだけじゃなかった。
 何か、自分でもわからない何かが足りない気がして、それは俺にとってなくてはならない物で、それがなかったからあんなになったんだ。その事に気づいたのは、小学校の遠足で高原に行った時だった。

 天気のいい日でね、自由時間になるとすぐさま、みんな高原じゅうにちらばった。もちろん俺もその中の一人で、ここに来た時から目をつけてた展望台にむかって走った。
 展望台にはもう二、三人ぐらいが陣取ってて、望遠鏡をのぞいてたけど、俺はそれにはかまわないで手摺りのむこうに身を乗り出してみた。
 その瞬間のことは、実はあんまり覚えてないんだ。ただ夢中になって、目の下に広がる景色に見とれてたことは覚えてる。鳥になったみたいにその景色の上を飛んでる気がしたことも、それから、今まで俺に足りなかったのはこれかなって思ったことも。……実際、それは俺にとってショックだった。もし集合がかかるのがもう少し遅かったら、俺は空中に飛び出してたかもね、鳥みたいに。
 それから、俺の『高所通い』が始まったんだ。学校の屋上から始まって、木の上やビルの屋上とか、思いつくかぎりの所へ行った(そうそう、某ビルの屋上で景色に見とれてたら自殺志願とカン違いされてさ、必死で止められて困ったっけなぁ)。
 そして、俺の夢をはっきりさせる出来事が起こった。小学校を出る頃かな、たまたま立ち寄った図書館で、グライダーの本をみつけたんだ。
 さっそくその本を借りて、読み終わった時にはもう心は決まってた。
 自分のグライダーで空を飛んでやろう、そう決めたんだ。

 中学の間は、割と自由に動けた。だから、グライダーと飛行関係の活動に明け暮れてた。……何のことはない、趣味に走ったって奴だ。ただ、高校の四年間はそうもいかなかった。まあ、親も周りも、俺が飛行バカなのは知ってたから、俺に勉強の事はあまり言わなかったけど。どうせソレ系の大学に入るんだから、何をいっても無駄だ。したいようにさせとけってね。
 大学は、やっぱり航空系の所に入った。航空技術専攻で。でもって、グライダー愛好会に入った。……そこで、あの人に会ったんだ。


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