○どういうわけか、私の中のいっさいは止まったままだった。○
私は、静かな子だとよく言われてきた。……実際、それはその通りだった。いつも部屋のすみっこにいて本ばかり読んでいたし、自分から他の子供と遊ぶ事もなかったから。
でも、それを寂しいだとか不自然だとか思ったことはなかった。そうやって一人でいる時間の方が好きだったから、むしろ誰にも邪魔されたくなかった。
でも、どうしてだか、周りは私をほうっておかなかった。「みんな遊んでるんだから、あんたも行ってきなさい」だとか、「そんなに本ばっかり読んでどうするんだい」とか。
けど、10才ぐらいになってからは、そんな事もあまり言われなくなった。
家の都合で親戚の家に引き取られていたけれど、特に問題は起こさなかったし、成績もそれなりによかったから。必要な事以外はあまり話さなかったけど、不自由はなかった。
それから、よく人のいないところに行った。山の中とか、真昼の道とか。……変に聞こえるかもしれないが、ちょうど真昼ごろ、どこでも人がぱったり途絶える時間があるんだ。みんな昼食をとりにどこかへ行って、ふだん人がいるはずの場所が無人地帯になる。そのときの、ばかに光が明るいくせに静かな、そんな気配が好きだった。
自分が周りと溶けて、ただ景色になってしまっているような。
そうやって何も考えないでいるのは、私にはとてもよいことだったし、とても大事なことだった。他の人にはわからなかったようだけど。
ひとりでいたがるところは、やっぱり小さいころから変わっていないと思う。
警察官になれば少しは変わるかとも思ったけど、結局このままだった。でも、何ごともない平和な街だったし、なにより、警察官は警察官でいる間は、他の人とはほんの少し、距離があるから。
そうやって、一人でじっとしていた。いつも、いつも。
そうしないと生きていけなかった。
……でも、本当を言うと、近い距離で関わっていた人間はひとりいた。
彼だけは、例外だった。