WORKS三題噺まとめ>1st Season - 02

●幼児/速度/牛乳瓶
 昔の級友に、開栓した牛乳瓶をくわえ込んで真上を向き、重力の勢いで落ちる牛乳をそのまま飲み干すという男子中学生特有の技能を持つ男がいた。そして、その耳元で「哺乳瓶」と囁き、彼の口を起点とする半径三メートル以内に白い毒霧を発生させた挙句、後始末をたった一人でやらされた男がいた。私だ。

●キャンディ/頭痛/残業
 最近の無理が祟って頭が重く、喉も痛い。スーパーで水飴を一壜買って出るとカナリアが肩に乗ってきた。喉を傷めて歌えないと耳元で囁くので水飴を一匙やるとどうした訳か、道すがら色とりどりの鳥たちが来る。ついには空壜片手に布団へ倒れ込み、翌朝我に返ると、水飴の壜は七色の飴で満たされていた。

●アブノーマル/未対応/モデル
 廃品置場でスマホは初めてポケベルに逢った。数字しか送れずネットとも無縁な相手に呆れ、卑猥な発音の数列を送る衝動にもかられたが、披露した時事ネタを大層喜ばれてやめた。ポケベルは機械が寿命らしく、お礼に昔流行った数列0833を教えて黙った。スマホは保護付きでそれを保存した。オヤスミ。

●日曜日/老人/ランプ
 日曜なので日喰鳥は日を喰いに出掛けた。羽という羽を伸ばして陽を受け、上機嫌で帰った。残り六日は飼主の婆さんを手伝う。昼は鶏小屋の狐を追っ払い、夜は目の悪い婆さんのため針仕事の横で光って手元を照らす。家の鼠は食べ放題だし婆さんは果物をくれる。日光ほどでなくとも日喰鳥はそれが好物だ。

●カーテン/募集中/ネックレス
 敵軍の包囲を打破すべく青年は義勇軍に入り、恋人の娘は身代りの首飾りを贈った。国は破れ、青年を捕えた敵の将校は首飾りを没収し、進駐先で見初めた娘に贈った。首飾りを見た娘は口先で承諾し、共に敵陣へ赴いた。その間に起った反乱で二人は銃を向けられたが、首飾りに気づいた青年は銃口を下げた。

●黄/化粧品/リスク
 トイレに忘れたポーチを取りに戻ると、開けた跡はあるが無事だった。まずポーチが一面毒キノコ模様、中のペンも忠実に魚や野菜の形、手帳は樹皮柄エンボス、財布は蛇柄、コスメは蝶のアレ。止めにスマホは赤や黄の天道虫シールで冬眠を再現。かくて賊さえヒいたポーチは友人達より魔ノ森の名を賜った。

●約束/トランク/味覚
 巨大製薬会社社長誘拐で逮捕された青年は、同社傭兵隊が潰した少数民族の村出身だった。廃車トランクから見つかった社長は全身が村特産の茸の苗床状態で、新薬に要るそうだから進呈したと青年は言った。咎める刑事に彼は死者を苗床とする伝統を教え、食べもしないのにさんざ殺しておいてと吐き捨てた。

●情報/景色/一人
 世界の果てを見つけよと王は言った。人々はあらゆる方角へ散ったが、陸を行った者は戻って来てしまい、空や海を目差した者は帰らなかった。万策尽きたと思われた時、一人の子供が落書きの風景を見せ、これが世界の果てだと言った。ここからいくらだって描き足せると。こうしてこの物語が始まったのだ。

●カーテン/戦友/筋肉痛
 芝居を観に来た筈が、上がった緞帳の向うも満員の観客。彼方と此方でしばし茫然、だが客がいる以上何か演らねばと義侠心に駆られた者達が中央に踊り出る。かくて台本無しの即興劇が開幕。熱狂は全員を巻き込み、劇場の外へ際限なく膨張。時所構わず観られ、演じねばならぬ世界が誕生した。――ネット事始

●すごろく/赤/筋肉痛
 家族で双六をやっている。私の出す数は1や2だけで進まず、ついにコマが疲れて倒れた。サイコロに文句を言ったら振り方が悪いという。悔しくて赤い目を睨んだら、目を伏せるように6が出た。快哉を叫んだがそれを見た家族もサイコロを睨み始め、グレたサイコロはすべての面を1の目にして睨み返した。


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