WORKS三題噺まとめ>1st Season - 03

●録画/猫なで声/模様
 飼い猫のサビ模様がたまに違っている気がしてカメラを仕掛けた。七日目で模様が変っていたので問い詰めると「よくぞ見破った。猫缶欲しさに時折兄弟が入れ替っておったのだ」との事。なら一緒に飼うから兄弟を呼んで来いと言うと「有難き幸せ」と言いながら五、六匹がぞろぞろ現れた。おのれ謀ったな。

●国/CD/羊
 睡眠改善のため全国民にデータディスクが配布された。起動して寝ると柵を跳び越す羊が脳内再生される仕様。だが製造過程でバグが混入、たまにヤギが軽々と柵を越えてそのまま絶壁に登りだし、目が離せず寝過ごす人が続出。なお稀にカモシカも出現、速やかに柵から出さないと密猟扱いで自動通報される。

●群れ/保護色/擬人化
 祖父のお年玉はジグソーパズルだった。拍子抜けしながら組み立てると、凧を背景に狸と小鳥がコタツでお屠蘇を呑んでいる絵。「狸」「小鳥」の名前に赤線が引いてある。閃いて凧のピースを抜き取ると、薄く「あけまして」の文字。ピースを二つに開けるとくり抜かれた中に「お目出度う」の紙と一万円札。

●白昼夢/書簡/ご飯
 しろやぎさんとくろやぎさん、二匹の恋は色違いゆえ互いの親の猛反対に遭い、唯一許された文通も検閲がついた。想いを綴ることもできず、せめて同じ色になる夢を見て白ヤギは白い紙、黒ヤギは黒い紙を贈っては食べている。読む前に食べた云々は外野へのミスリードで、本当の中身を知るのは二匹だけだ。

●ペナルティ/Web/群れ
 「お前の資産を差し押えた」という微かな声に戸棚を見ると米粒程のクモが茶筒に巣をかけている。猪口才なと茶筒を取ろうとしてよく見れば巣の糸目が記号状で、クモ文字で「差押」とか。面白いので教えろと言うと夏期講習十回との事。一回ユスリカ三匹で手を打ったが新手の訪問販売にかかった気もする。

●味覚/責任/味覚
 流行に乗って鉢植えの木にツリーハウスを作ったら豆粒ほどの鳥に棲み付かれた。外だと雀やメジロに追われるというので置いてやったら仲間を呼ばれ、大きくない木が村の様相。そのうち彼らの主食とする実が鉢に落ちて芽吹き、義理堅い彼らは家賃にと分けてくれた。人間には少々渋いが有難く頂いておく。

●銃弾/群れ/スキップ
 虫に本を蜂の巣状態に喰われ、止め跳ね払いも判別不能だ。文句を言うと、不要な本ならと自分達の物語に書き換えたのだそうだ。穴……連中の文字は平面の目視でなく、長さ深さ角度等、入って体感で読み進めるとか。ウォータースライダーや巨大迷路に行ったらどんな物語を読み取るのか、聞きたくはある。

●連絡/紅葉/頭痛
 何ぶん春なので山が笑うのは当然だ。が、連日夜中まで少々かしまし過ぎやしないか。国内では新山と呼ばれる部類の山々のこと、箸が転がってもおかしい年頃なのか。単に陽気のせいか。山ガールもといギャル山どもめ、この分だと秋には蛍光色モミジででも粧いかねない。化粧禁止の通達を出すか悩ましい。

●記憶/夏休み/ゲーム
 魔窟とされる呑屋街へ行った。ぬるい風の中赤提灯の並ぶ階段道を奈落の闇へ降りる。両側の店は呪文じみた賑わいで人を誘い、酔客は踊る足で店から店を巡る。降り切った物陰でそっと獲物を確かめた。ずしりと重い印伝の財布。と見る間にそれは縮み、魔よけの小石に変じた。呆然とする耳にどっと笑い声。

●ゲーム/爆竹/虹
 友人とふざけて花火を向けた地面の穴が何らかの妖精もしくは妖怪の巣だったらしい。その後花火をするたび飛び散る火の粉がみな極小の人影となり、地に落ちるや走って消える。火事にはならないものの気味悪く、魔よけのつもりで爆竹を鳴らしたら破裂音の替わりに無数の囃し声が白昼をどよもして消えた。


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