WORKS三題噺まとめ>1st Season - 04

●骨/骨/タバコ
 大理石を切り出した池には水草が涼しげにたなびく。時折金魚たちがよぎり、縁に貼り付いたカワニナは微かに藻を食んでいる。大理石のアンモナイトは豆粒のような後輩の掃除を喜び、同じくシーラカンスは赤い後輩たちに太古の海を物語る。いつか全てが煙と消えても、ここは別天地のまま石と化すだろう。

●変態/シャボン玉/白鳥
 原油流出事故で黒光りの海鳥曰く、カツオドリでも今唄えばスワンソングかね。それを洗う石鹸曰く、僕の身にもなれよドロドロで歌の風情もありゃしない。カツオドリ黙して半刻、やっと油を落とした石鹸曰く、おいまだ別の鳥がいいかい。カツオドリ曰く、やっぱり俺の歌にする。そうかと満足げな宙の泡。

●黄/絆創膏/青
 小学校ではお洒落厳禁だったので、初めて交換した指輪はマスキングテープだった。友達ご自慢のレトロアクセサリー柄ので、練り消し半分と引換えに少し貰った。私は琥珀で彼はエメラルド、石の意味も知らぬままこっそり巻きっこした指輪は誰の目にも止まらず、私はそれを眺めてその日じゅうを暮らした。

●菜の花/約束/老婆
 日記が宿題だったが、辛い事を残すのは嫌だ。祖母に言うと、なら一つ花を描きなさいと教えてくれた。こうして花の絵が上手になった頃、祖母が他界した。大人達が遺産を分けている横のお供えは一昨日の花だ。私は隣室で畳ほどの画用紙にありったけ花を描いていて、画用紙を描き潰しそうなのに足りない。

●ゲーム/風邪/短歌
 学校には熱が出たと言い、いつもの植物園へ行く。一枚ごとに凩を薄めるドアの最奥は亜熱帯、鳥が幾羽も放たれ、運がよければ果物も貰える。携帯で開くサイトは遠方の友人達と続ける会員制文芸部。半日居座るつもりだ。傍らの鳥達はみな絶滅危惧種で、滅ぶ前にブンガクになりたいというので責任は重い。

●青/英語/日曜日
 入籍の際は夫婦別姓を採りたいと言うと案の定どちらの両親も苦笑いで認めてくれた。海外では珍しい事でもなし、第一いかにも仲良しではないか、「大栗」と「木下」は。表札の案はもう決めた。枝葉を大きく拡げた樹の下に両家の姓を入れる。いつか子供が生まれたら、本当にそんな場所に家族で行きたい。

●すごろく/涙腺/流行
 振興企画で、商店街が双六になった。チラシの商店街地図が盤面になっており、端っこを切って作ったサイコロの目の組合せで行く店が決まる。各店の独自キャンペーンもあり、参加者はみんな案外大真面目だ。私も金物屋のサイコロビンゴで数十年ぶりにアルマイトの弁当箱を手にし、つい目頭が熱くなった。

●モデル/時計/絆創膏
 試験の日。いじめられっ子が腕に貼っていた絆創膏の上の印刷が動いている気がして横目で見ると、デジタル時計である。訊けば極薄の使い捨てとか。時計なんて盗られるし邪魔だから、終わったらどっかに貼ってっちゃうんだと彼は言い、ついでのように付け足した。「でさ、これが爆弾だったらどうする?」

●耳/爆竹/年齢
 「墓は要らん、海に撒いてくれ」が口癖だった遊び人の祖父が他界した。火葬場から戻って車を降りた途端一天俄かに掻き曇り耳を弄する雷鳴、横殴りの風雨であっという間に空へ攫われる遺骨。呆然自失の僕ら孫一同に伯父「ありゃバアさんだ」。ジジイ今度ばかりはバックレ損ねたなと笑い泣きの大人一同。

●景色/虹/年齢
 地上げに逆らって居座り続けたじじいがついに越していった。体が弱り、息子夫婦の勧めでホームに入るんだとか。ノルマが満たせず絞られた衝動で地上げ屋を辞めた俺は、ごっそりパクったノベルティの花の種を元じじいの庭に思う様ばら撒いてやった。再開発の始まる春には現場は花まみれ、ざまあ見ろだ。


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