WORKS三題噺まとめ>1st Season - 05

●無差別/ネックレス/螺旋
 老舗デパートの壁の大理石に覗くアンモナイトの一つが隠し金庫のダイヤルだという噂が流れ、月来店者数が二割増した。ネタ元は宝飾テナント新作のアンモナイトのロケットだとする推測もある。が、実は壁のアンモナイトの一つが脳波ラジオのダイヤルで、デパートが人々の深層心理に噂を流したのが真相。

●ムカデ/年齢/包丁
 一面の花畑の中、草むす砦を老人は護っていた。帝国の侵攻に備え十八から詰めている由。国境とは言え辺境、補給も来ず狩りと畑が専業ですと振舞ってくれた鍋は大層旨い。同僚を看取り花や虫を友としつつ地の果てを睨む彼には告げぬが吉だろう。帝国も祖国も彼の頭上を飛び交ったミサイルでとうに亡い。

●ネックレス/フルボッコ/虹
 苛められっ子の首飾りに苛めっ子達は早速狙いをつけ、大小とりどりのビーズが無残に砕けた。のち、宿題は無くすわ犬には噛まれるわ災難続きの彼女達に苛められっ子が言う。あのビーズは星だから、壊すと時差つきで報いが来るの。小さいのの分はこの程度だけど、一番大きいのの分はどんな具合かしらね?

●保護色/無差別/爆竹
 その世界を支配する神は、傲慢ゆえ神々の王から罰を受けた。お前がそれほどまでに他の世界を軽んずるなら、お前の世界の生き物たちに重荷を課してみよう。彼らの力のほどを見せるがよい。かくてこの世界の生き物は互いに喰らい合い騙し合い、行き過ぎた武器で滅びの淵にありながらしぶとく残っている。

●一人/名前/耳
 冬虫夏草を高く買うという人がおり、他人の山へこっそり入った。獣道を行くこと一時間、ふと(わたし)という声を聞いた。(わたし)(わたし)なぜかつられて下りた窪地に目当ての茸。採ろうと屈んで気付いた、そこらじゅうに生えている。さらにその奥、背丈ほどの巨大な冬虫夏草。そこから「わたし」

●鉄棒/ミカン/緑
 庭木に蜜柑を刺しておき、食べに来る野鳥を見ている。お客は概ね小鳥で、中でも色鮮やかなメジロは常連だ。信じて貰えないが一度だけ、目の周りが黒い奴が来た。小笠原のメグロとは明らかに違う、白部分が黒い「メジロ」だ。しかし、あっと身を乗り出した瞬間柵をかすめて飛び去り、それっきりである。

●女/耳/景色
 十年前に死んだ妹の手をひいて祭に行く。夜店で買ってやった飴細工の兎を耳からちょっとずつしゃぶっているのが何とも可愛い。姉ちゃんあげると言って差し出してきたそれを食べてやりたいが、飴屋の親父が睨んでいる。判っている、妹に悪気はないが兎飴は死者用で、生者が食べたら連れて行かれるのだ。

●菜の花/日曜日/速度
 すずめ都電線は名の割に郊外の山里の路線だ。廃線になるという噂が過去何度も流れており、油断していたら本当に潰れた。帰郷ついでに寄ってみると線路は草の下で、離れ小島のような無人駅のホームから見える一面が野花の海だ。屋根裏は小鳥たちの住処となり、どうもやっと名にふさわしくなったようだ。

●残業/戦友/菜の花
 思い立って洋書型の小物入れの中に春の庭先のジオラマを作り、部屋に転がっていたドリンクのおまけの猫フィギュアを死んだ飼猫の色に塗り直して配置した。二重底の下には奴の写真をぎっしり入れた。奴とは十五年一緒に暮らし、一昨年の今日が命日である。仏壇代わりに職場のデスクに潜ませるつもりだ。

●留守/カーテン/銃弾
 逃げたオウムが凄まじいマシンガントークを覚えて戻った。前は一言も発しなかった奴なので訳を訊くと、潰れたペットショップで会った保健所行きの鳥獣から本来の残り寿命分のお喋りを貰ったとか。ヒトの言葉は直後に自殺した店主のものらしい。布を被せても静まらず、相槌を打ち続けて七日七晩になる。


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