WORKS三題噺まとめ>1st Season - 07

●列車/タバコ/ライブ
 とある独裁国家にも反体制派はいた。彼らはタバコ密造で得た資金で装備を整え独裁者暗殺を実行したが失敗。死刑判決を受けた首謀者は最期に自分達の闇タバコを吸い、刑場の露と消えた。翌日独裁者の専用列車が失火で全焼、体制は崩壊した。後、件のタバコの内側に専用列車が印刷されていたことが判明。

●ボタン/ゲーム/マグカップ
 母の他界以来、日々とりどりのボタンで満たしたコップを仏前に供えるのが日課だ。母は仕立屋で、端切れやボタンが私の玩具だった。家は貧しく持ち物は少なかったが、ボタンで一杯の箱は宝石箱だった。母は愛人を連れてきた日、彼のおもちゃを断った私をつねった。捨てられて首を括ったのは割とすぐだ。

●目玉焼き/かさぶた/桜並木
 裏山の公園隅から延びる秘密の径は中腹の一本桜へ行き着く。重く揺れる花は音もなく、見下ろす街はおもちゃのようだ。あのどこかが大通りの桜並木で、仲違いした友人達が人波に揉まれている。一人のエアポケットで食べる弁当がさほど美味しくないのは手料理を笑われたせいで、静けさはむしろ好ましい。

●露天/無差別/ゲーム
 冬の公園で日なたの地面にじっと腹をつけて体を温めているハトどもをそっと両手で持ち上げて横に移す遊びを延々繰り返していたいと友人が言う。その妄想だけで半日潰せるらしいので頭の病気を疑ったが、本人実に幸せそう。仕方なしにハトが暴れるだろうがと言ったら、そういう問題ではないと叱られた。

●茶碗/グラス/ゆとり
 携帯が妙なメールを拾うようになった。本文以外宛先も送信元も空白なのだ。関連性は不明だが「みづ せろり わああ」というのが来た日はセロリに蝸牛が潜んでおり、「っぴぴり のと ばらばら のです」というのが来た日は食器を二つも割った。直近のが「  がらけ 」で、機種変更を躊躇している。

●予測/残業/飛行機
 太陽の暈をくぐった紙飛行機は本物の飛行機になるんだと病床の息子は言った。それに乗って行けば神様に会えるんだと。そんな事を思い出したのは深夜、会社の窓から見上げた月に暈がかかっていたからだ。手近な反古紙を飛行機に折り、満月を思い切り射た。あれに乗って行けば、お前の星に辿り着けるか?

●支え/月/お茶
 月が沈むのは増えすぎた兎を地に降ろす為だ。兎=鳥類説ができるほど有名な話だったが今は昔、地上に慣れぬ兎達に月見団子を振舞う習慣も廃れた。お礼に兎がくれる餅は美味だったと祖母は言う。今や空家の月に芒でハタキ掛けしているひとに嘘とも言えず、横目で見ると祖母はすまして番茶を啜っている。

●予測/フルボッコ/フルボッコ
 ばたんと眼前の地を打ったのは銀杏の葉だ。蟻が見上げると上空の枝は黄一色。この時期大量に落ちてくる葉は輪郭が鳥そっくりで蟻はちょっと苦手だ。その隣の紅葉も人間の子供の掌に似ている。閃いてドングリ帽子を拝借し、空襲を避けながら歩いたが、その様が子供を魅きつけるのに蟻はまだ気づかない。

●ぬくもり/マナーモード/コーヒー
 私の小説の筆名は連名、原稿は手書きのままだ。文の周囲に絵とも記号とも見える装飾が入り、時々文と絡まっている。合作相手は秘密だが実はこの喫茶店に棲む小人達だ。居眠り中にコーヒーで落書きされたのを横目で黙認して以来、人も来ぬ隅の席でインクとコーヒー染みの紙上セッションを楽しんでいる。

●虹/勇気/ノイズ
 バー"One-Shot Bar"名物は壁の無数のQRコードだ。その一つが当りで、モバイルのカメラで一日一回挑戦できるが正解者はまだない。思い立って壁の「ある物」を撮るとURLが表示され、飛ぶと七色の字で「正解」。碁盤の目の街路を上から写した白黒の航空写真にコードが隠れていたのだ。


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