WORKS三題噺まとめ>1st Season - 10

●タバコ/英語/狼少年
 プライムハイツという学生アパートに住んでいる。入口の管理室窓口にはヤニで汚れた某海外ロボット映画主人公のプラモが置かれ、マスコットとして黙認されていた。去年の四月一日、それが大仏のプラモに忽然とすり替わっており、管理人の仕業とすぐ知れたが、由来に気付くのに住人総出で三日かかった。

●銃弾/青/涙腺
 先祖が盗んだ蒼玉は泣く子も黙る祟り石で、一族全滅前に戻しに行くも道中災難続き。宿で座った椅子まで訳ありで、玉と椅子が私の呪殺権を巡り激突、潰れた宿の主に椅子を持たされ災厄まみれの同行三人で遺跡到達。石像へ戻り力を増す玉、それを像ごと倒して椅子に座らせ一目散に逃げて以来私は息災だ。

●流行/ゲーム/CD
 カード型文具に燃えた世代だ。休み時間に友人達とマイデッキを一枚ずつ出して機能や珍しさを競い、僕の工具カードは常勝の切札だった。最近思い立ってそれらを撮り、タッチパッドで操作できるアプリを作った。カード文具の情報をウェブで募ったところ好反応で、全員分加工してネット対戦会を構想中だ。

●ボタン/アブノーマル/新月
 ベランダでクッションを叩いていて、カバーのボタンを打ち欠いてしまった。破片はすぐ真下の庇の上、億劫で放置したものの、欠けた部分がズボンに引っかかるのが気になり、二週間後に拾って貼り合わせた。二つの破片はぴったり付いたが心持ち色が違う。何よりその日以来、その形に月が欠けて戻らない。

●チェス/白昼夢/一人
 拙宅の白い和金は鼻の黒いちょび髭模様からチョビ。近所のノラ八割れ猫も通称チョビだ。夜半、池の縁でチョビ猫が、水面に鼻を出す金魚と無言で対峙していた。次の瞬間金魚が跳ねて猫の額に衝突、それきり猫は駆け去った。翌日庭先で餌をねだる猫は鼻の黒い白猫、慌てて見た金魚は黒ぶちに八割れ模様。

●屋台/男/景色
 祭に来る老飴細工師の腕は毎年評判だが、仕事始めの光景を知る人は稀だ。各店準備中の時分、ソレを知る子供達を前に彼は十二支の由来を語る。牛の背の鼠で始まる口上に沿って淀みない指が生む十二匹の動物達、最後に猫を添えて開店だ。十三匹は客足と共に入れ替わり、子供達の眼前で物語が次々花開く。

●黄/舞台/内股
 駅構内の通行人を数えるバイトに就き、雑踏をカウントしていると不意に傍で黄色い声。振り向いた視界を巨大な布が塞いだ。獅子舞だ、それも約二十人入りのむかで獅子。かぱっと開いた大口の中身は友人のどや顔。どこで調達した、そして邪魔だ。足早に行き交う人々を陰に隠し、眼前の獅子は悠々と舞う。

●カーテン/包丁/ノイズ
 森に潜み強大な魔力で王を脅かす魔女が遂に賞金首となった。皆が二の足を踏む中若い男が名乗りを上げ、魔女に唯一効く武器と称して折れた剣を提げていった。誰も期待しなかったが、その日以来災いはぴたりと止んだ。やがて戻った彼曰く、自分は魔女の戦死した息子の僚友で、形見の剣を返しただけだと。

●責任/まとめ/約束
 生まれてきたことを後悔させてやると百歳の祖父が宣言した。世界最長の音楽の演奏終了が西暦2999年だとか、次回の火星の地球最大接近は西暦2287年だとか、そんな微妙に悔しくなるような事ばかり言ってくる。「サグラダ・ファミリア2026年完成見込み」のニュースがよほど悔しかったらしい。

●無作為/女/爆竹
 栄転したお天気お姉さんとそれを邪魔する雨雲の闘いは熾烈を極めた。前夜の予報をことごとく外してくる雨雲の裏の裏の裏の裏をかこうとするお姉さんの予報がノストラダムスの様相を呈してきた頃、番組は満を持して秘密兵器を投入。晴天にぼん、ぼん、ぼんと響き渡るその音こそ人類の英知、人工降雨だ。


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