WORKS三題噺まとめ>2ns Season - 01

●歩く/砂漠/拒絶(シェリダー)
 四歳の息子が食卓に白い砂を広げ、叱っても聞かない。と砂上を動く姿、見れば小さな駱駝が小さな女を載せてゆく。そうだ、昔破いた絵本の場面。女は顔を上げ、その子に免じて許しますと言うや掻き消えた。よくこんな白いお砂見つけたね。感慨深く砂を掬って息子に言えば、彼が得意げに指差す猫トイレ。

●悪態をつく/ベランダ/恋人たち(ラヴァーズ)
 姫が隣国の森の塔に幽閉されて二年。国は呑まれ両親は刑場に消えた。許婚の戦死はその前だ。鉄格子入りの小窓から異郷の山を眺め暮らしたある日、王の夜伽の沙汰が下りた。牢番は鉄格子が緩いと呟き、姫は彼の慈悲を察した。姫が身を投げた窓の下に翌春、二輪の花がくちづけるように寄り添って咲いた。

●挑む/フローライト/貪欲(ケムダー)
 花言葉・石言葉は人間が決めたに過ぎず、花同士石同士は独自の認識で互いを観ている。彼らにすれば薔薇を贈るだのダイヤを欲しがるだのも致命的なミスマッチかも。そう言っていた変人の叔父が頓死し、遺言通り土葬になった。運よく化石になり彼らの会話に入れたら、彼らは叔父をどんな名で呼ぶだろう。

●踊る/蓄音機/女帝(エンプレス)
 その酒場の歌姫は足が不自由で、椅子にかけて舞台をこなした。だが古今東西の歌という歌に通じ、どんな要望にも美声で応えるので店は繁盛した。閉店の日、主人は今までの礼に望みを一つ叶えると言った。彼女が脚と答えるとその魚の尾は人間の脚となった。踊り子が夢だったの。彼女の足どりは嬉しげだ。

●休む/秘密/剛毅(ストレングス)
 美女デリラの色香に迷った勇士サムソンは、髪を切られると力を失う弱点を寝物語に漏らした。やがて寝こけたサムソンへ刃物片手に迫るデリラ。だが名だたる勇士、跳ね起きて左手で刃物を奪い、絞め殺さんと右手を女に伸ばす。絶体絶命の女がとっさの一言「あんたの頭、十円ハゲ!」その時歴史が動いた。

●びびる/ビー玉/塔(タワー)
 頭蓋に穿孔して第六感を高めるオカルトが流行ったが、一笑に付した。私は生れつき頭蓋の継目が一片足りずBB弾大の穴がある。特段何もないからガセだ。と、友人達が妙な顔をする。お前は昔から宙に向かって会話するというのだ。みんな冗談はよせと笑うと、この場には俺とお前の二人きりだと返された。

●悩む/煙草/物質主義(キムラヌート)
 昨日着ていたTシャツの金魚がみな消えた。折よく雨なので探しに行くことにし、ベッドで目を閉じて魚になった。ひと気のない道を泳いで公園へ入ると、金魚どもがあずまやで捨犬の周りを泳いでいた。昨日から捨てられていたようで、心配で見に来たらしい。犬と金魚を先導して霧雨の中を家まで行進する。

●劣等感/ソーダ水/魔術師(マジシャン)
 色々な炭酸水をグラスに入れて魔術ごっこ、は定番の遊びだ。クラスに魔法使いを名乗るいじめられっ子がいて、僕らはサイダーを見せて魔法で何かやれと迫った。案の定泣きだした彼を放っておき、僕が得意げにグラスを覗くと――中を泳ぐ、極小の鯨の群れ。慌てて口を付けた中味は苦い塩水に変じていた。

●噛む/夢/理解(ビナー)
 友人が青空を指で四角に切り落としていた。舐めると甘いので、分けてもらって二人でひとしきりしゃりしゃりやる。が、もとが空っぽなものなので腹には一切溜まらず、要は気休めだ。本当は夜間、子供部屋の窓に嵌め込む物らしく、子供が夜を怖がらなくなる、寝ている間の夢が映る等の効果があるらしい。

●偲ぶ/箱/戦車(チャリオット)
 太陽系第三惑星・地球が宇宙遺産に登録された。固有の自然体系とそこで発展した文明が顕著な普遍的価値を認められた為だ。文明の主・人類は戦争でとうに滅び、その遺跡群は危機遺産として修復と保全が叫ばれている。だが範囲が星全域に及ぶ上、人類の建築手段は自然破壊を伴う為、議論は難航している。



●嗅ぐ/ナイフ/月(ムーン)
 領主は森の小村を反乱のかどで滅ぼしたが、狙いは特産の香り高い薔薇の独占だった。小銭に釣られ秘伝の栽培法を領主に話した若者は、自らを生贄に最終最後の呪いをかけた。夜、薔薇風呂を試していた領主の奥方の浴室から悲鳴。浴槽のみならず倉庫も庭も、薔薇の花弁という花弁が薄い刃物と変じていた。


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