WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 02

●諦める/ガーネット/正義(ジャスティス)
 世界を狙う結社のボスと、彼を倒したヒーローがグルだという噂は、執拗に流れ続けた。ヒーローを信ずる少年は友人と諍いになって飛び出し、そこへ車が突っ込んだ。間一髪彼を救ったのは憧れのヒーロー、だが服の下にボスの首飾りが見えた。ヒーローが力と引替えに次代のボスになる掟を、少年は知った。

●偲ぶ/リボン/欲望(ラスト)
 フードプロセッサを頼んだのにワードプロセッサが届いた。今日日使い道に困っていると、老使用人がおずおず貸し出しを希望した。彼は字を書けないが読め、キーボードは便利らしい。棚にあったインクリボンごとあげると、自伝を書いては見せてくれる。昔の暮しは興味深いが、私を神童呼ばわりは勘弁だ。

●放す/鋏/知恵(コクマー)
 不器量で不器用な妹を見下すのが私の日課だった。ある時から妹のシャツに小さな刺繍が付き始め、問い詰めたら練習していると言われた。あんたの指で? 鼻で笑ったが、刺繍は日ごと多彩に繊細にシャツを満たしてゆく。引き換えに私の眉間には皺が寄り、目は吊り上がり、口を出る罵り言葉は痩せてゆく。

●後悔/牙/運命の輪(ホイールオブフォーチュン)
 結果的に姫を死なせた王は併合した国民の恨みを買い、政変で例の塔に入れられた。その後新しい王も倒され、議会が興った後も数年単位で元首が入れ変わった。数十年後に国が安定し、用済みで取り壊されるまでに塔へ消えた者は数知れない。あの花は元牢番の庭に移され、老夫婦の目を毎年楽しませている。

●困惑/切符/剛毅(ストレングス)
 食虫花が頂いた蟻は冬虫夏草持ちだったようで、虫の残骸を餌にしぶとく伸びた茸が花の口からひょいと出た。あんた出なさいよ邪魔ね。仕方ないでしょ蟻の行き先なんて選べないわよ。不毛な舌戦の末、彼らは共存に落ち着いた。食物の好みが合うので仲はいいが、お喋りが物騒過ぎて時々虫が寄り付かない。

●踊る/虹/星(スター)
 大発生した毛虫に両腕一面ボツボツにされて寝込み、夢を見た。天球に広がる星はつまり発疹で、それを生み出す星雲こそは宙に渦巻く巨大な毛虫だ。夢は進み、私の腕の発疹一つ一つを星として色とりどりの命が日を暮らす。なら、宇宙の名で呼ばれる何者かも寝床で痒みを堪えているだろうか。

●冷静/花火/吊るされた男(ハングドマン)
 やむなく人を殺した僕は罰として中空に上げられ、風と霧を任された。眼下の大地では人間が働き、遥か頭上の羊雲や星は善人の管轄だ。自分の半端な位置が初め不安だったが、何せ報いだし、指示通り刻々流れる風や霧には時を忘れる。僕の手にかけた人でなしが地獄の刑を終えるまでというが、顔も忘れた。

●諦める/言葉/節制(テンパランス)
 春雨が止んだら園芸店で露地植えのチューリップの花を覗くとよい。運がよければ中に溜まった水を無言で泳ぐ色様々な金魚が見られるだろう。この時分蕾をつける金魚草のうち花に成りたがらぬいくばくかを、先に咲くチューリップ達が一時預かり、花である事を受け入れるまで魚で居させてやるのだと聞く。

●聴く/魚/星(スター)
 火星の人面岩は独りの暇潰しに地球を眺める。目がいいので人間の営みがよく見える。気に入りは山上の民で、堅牢に組んだ石の街、とりどりの衣装が闊歩する市場を飽かず見た。彼らも自分を知っており、時々地上に巨大な漫画を描いてくれた。無音に阻まれ礼を言えぬうち民は滅ぼされ、漫画の続きはない。

●優越感/葡萄/塔(タワー)
 政争に敗れ幽閉された王子がいた。五層からなる地下牢の最下層が終の住家で、上の様子など知る術もない。歳月を数えるのも忘れた頃、壁の隙間から細い木の根が顔を出し、彼はふと考えた。これは根でなく蔦、ここは世界の頂点だ。愉快になった彼は再度の政変でも外へ出ず、塔の哲人として生涯を送った。


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