WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 03

●見る/角砂糖/勝利(ネツァク)
 庭の蟻退治にと角砂糖に毒を染ませて設置した。蟻を引き寄せる成分入りで、巣を根絶やしにできる。翌日覗くと果たして角砂糖は跡形もなく、黒い小さな姿も見当らない。安心して庭仕事を終えたその夜、いつもより働いたせいか強い眠気を覚えた。吸い込まれるように倒れ込んだ白いベッドマットは甘い香。

●喜ぶ/ソーダ水/隠者(ハーミット)
 山奥の叔父を訪ねる。世を捨てた癖にラムネは気に入りで、土産の瓶を大事そうに小川へ浸けていた。薄緑に霞む山々は所々桃色が咲き、二人掛ける縁側の足元も踊子草の林だ。結婚はいいがあの男はなあ。問う前から叔父が呟く。周囲が浮かれる中そう云って貰ったのは初めてで、無言の喉にラムネが弾けた。

●幸福/耳飾り/物質主義(キムラヌート)
 ウミウシの間には人間になった娘の話が伝わっている。村で一番美しい模様と触角を持っていたにも関わらず、妹の模様を妬んでその皮を剥いだため、罰として人間にさせられたのだ。以来人間は地味な皮を持ち、美しい服や装身具は金で購わねばならず、母なる海から拒まれて陸の上で真水を求めさ迷うのだ。

●歌う/ランプ/無神論(バチカル)
 デジタルデータの記憶媒体として遺伝子操作されDNAに様々な情報を記録させられていた菌類のうち一種が、操作時の突然変異で猛毒を得て大増殖を始めた。かくて自らの「記憶」になす術なく滅ぼされる人類、読み解く者とてなき殺人菌の所持データこそは人類の灯たる名曲「ぼくらはみんな生きている」。

●痛む/耳飾り/残酷(アクゼリュス)
 芝生で昼寝中に枕で蟻の巣を塞いだらしく、幾匹か枕に棲み付いた。気付かず持ち帰ったその夜の夢で、蟻が妖怪枕返しを追い払った。安堵も束の間、殖える蟻どもの話が耳元でうるさい。自分で枕を返すと蟻は慌てて逃げ散り、早速現れた枕返しが枕を返していった結果、枕は正しい位置に戻り、以来安眠だ。

●抱きしめる/切符/世界(ワールド)
 破れた枕をぼろシャツで繕ったところ、実は恋人だったらしい彼らが夢の中で逢引きを重ね始めた。試しに他の布を当てると三角関係になり、家中の布を当てた結果剣と魔法と野望と愛の大活劇が毎夜展開され目が離せない。遅刻続きで首になった俺は自分の髪を布状に編んで当て、永遠に彼らの仲間入りした。

●投げる/秘密/節制(テンパランス)
 古いネガをスキャンしていると、フィルム中に小さな鬼の姿を見つけることがある。誤って感光した箇所の隅、フィルム送りの空撮りでほとんど写らない最初の三枚分など、今まで現像されなかった部分に限って写り込んでいる。運悪く写らない時に当たってしまうのか、彼らが狙ってそうなるのかは諸説ある。

●泣く/ミルクココア/根源(アツィルト)
 夢に十八歳程の少女が出、貴方の娘になろうと思うのと言った。古典児童文学の主人公の一人で、ふいと仲間を外された展開が幼心にも理不尽だった。一念発起して撮った「彼女のその後」の自主制作映画がウェブで拡がる頃、彼女が再び夢に出た。庭の四阿でお茶を注いでくれながら彼女は百年分泣いている。

●嗅ぐ/ベール/太陽(サン)
 星が落ちたというので愛犬と出かけた。程なく微発光する欠片を犬が嗅ぎつけ、ぱくりと呑む。折角なので周辺を探し回り、魚の化石や原石等も呑ませる。当節新しい石は機械で錬成するのが一般的で、体内熟成は違法だが、機械を買えずこっそり続ける貧困家庭は多く、思わぬ物が出来るので実は需要も高い。

●傲慢/羽根/貪欲(ケムダー)
 雨の日、信号待ちの傘に烏が飛び込んできた。肩に止まり、近所の神社へ送れといけ図々しい。仕方なく寄ると、入れ替りに重たいオウムを託された。動物園への戻り道が分からないという。肩凝りに耐えて連れて行くと、傘が巨大な鳥になった。以来目的地までひとっ飛びだが、何分濡れるし時々フンをする。


WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 03