WORKS三題噺まとめ>1st Season - 04

●傲慢/アクアマリン/知識(ダアト)
 人間が近縁種たる犬を愛でるのと同様、ゾウリムシはミドリムシを飼う。澄んだ水へ光合成に連れて行き、長い鞭毛を手入れしてやりと睦まじい様は単細胞と侮れない。その最愛の伴侶の天敵が人類だ。ミドリムシを殖やしては食い倒すその暴挙に水源という水源を握る彼らがいつまで耐えるかは時間の問題だ。

●緊張/呪文/悪魔(デビル)
 使用人として入った屋敷に三猿の刑という罰があり、最近一人が受けたと聞いて腰が引けたが、初日は大事なかった。異変は二日目、暗い顔で働く一人の青年に全員が目もくれない。これが三猿の刑、今の彼は幽霊同然なのだ。ただ救いらしき物はあり、青年の食事は座敷童に遣る口実で庭師が毎度置いている。

●苛立つ/文字/皇帝(エンペラー)
 兄が生霊となり僕の元に現れた。あんな事をして済まない済まないとしきりに詫びられたが、むきになって言い返した僕にも責任はある。閻魔庁も、刺された僕が化けて出るなら分かるが殺した側が生霊になってここまで来た例は載っていないと困惑気味だ。とまれ、呑んだくれだが根はいい兄なのだと訴える。

●挑む/髪飾り/無感動(アディシェス)
 飛ばしてしまった山桜の笠を雨蛙が追うと、ひき蛙がそれをちょんと頭に乗せていた。雨がぼんぼん降って来るので意を決して頼むと、そうかいと言って返してくれた。あまり残念そうなので雨蛙は山つつじの花を乗せてやった。ひき蛙は池まで乗せてくれ、ぴょんぴょん跳ねる花を子供が口を開けて見ている。

●諦める/鈴/残酷(アクゼリュス)
 彼の着けるイヤーカフは幽霊を関知する。近辺に幽霊がいればそれが熱を持ってジイイ…と微かに鳴り、成仏すれば止む。久しぶりに会った友人にそれを話し、異常無いのを見るとお前は生きてるなと軽口を叩くと、いや死んだのはお前だと返された。瞬間イヤーカフが氷と冷え切り、耳中に無音が膨れ上った。

●憧憬/真珠/表現(アッシャー)
 ワラ人形と誤読された童(わらべ)人形は復讐に燃え、本物の藁人形を志した。他の藁人形に胴体の交換を頼んだが高級品種の本藁だと断られ、替りに稲穂の飾りを貰った。農家で藁の体を頼んだが牛にやると断られ、替りに貝の櫛を貰った。かくて次々女子力を上げた人形は、ワラシベ人形として名を馳せた。

●嗅ぐ/マシュマロ/無神論(バチカル)
 留学生が羊羹を御馳走してくれるというのでダイエットを忘れて訪ねると、文字通り羊の羹(スープ)が出てきた。香辛料の効いたスープを啜りながらてっきり甘い方かと思ったと言うと、それは君が持って来るのかと思ったと笑われた。卓上の花瓶には私の土産のウスベニタチアオイが澄まし顔で咲いている。

●泣く/レース/創造(ブリアー)
 レース編みの得意な娘がいた。日々の飾り、テーブル掛け、花嫁衣装まで注文が引きもきらず、娘も喜んで模様を創り続けた。それを妬んだ女貴族が娘の指を駄目にし、娘は海に身投げした。憐れんだ神が娘を波にし、彼女は喜び勇んで打ち寄せては新しい模様を見せる。最近は女神達からの注文も多いようだ。

●嗅ぐ/氷/残酷(アクゼリュス)
 恋人が蛇女で、僕の好きなミント系タブレットが大の苦手だ。彼女のは生肉風味で、ほぼ丸薬と呼んで差し支えない。「タブレットはキスの後」が不文律となった。掟はまだあり、彼女は奥歯に毒を持つので要注意だ。だが前歯でないだけましで、吸血鬼が恋人の友人は完全夜型になった。理由は聞いていない。

●食べる/天体/戦車(チャリオット)
 彼は星を一つ滅ぼすたび、そこの土を喰う。同じ味は二つとなく、どれも不思議と旨いそうだ。その瞬間だけは、自分のした事もされた事も皆忘れてしまうという。中でも一番は最初に喰った自分の星だと彼は笑った。彼が滅ぼしたのか滅ぼされたのか訊けずに黙ると、二番はお前の星だぜと慌てて添えられた。


WORKS三題噺まとめ>1st Season - 04