●食べる/精霊/戦車(チャリオット)
二つの超大国が揃って軍事衛星を打ち上げた。技術スパイ合戦の結果、両機はそっくり同じ形状・機能だ。上空で互いを認識した時からどちらも他人の気がせず、以来電波で毎日こっそり近況をやり取りし、軌道がすれ違う時には目礼を交わす。次の十五夜は酒代わりに燃料を交換しながら月を観測する約束だ。
●哀しむ/裸足/無感動(アディシェス)
肩が当たった貧弱な男に、骨折した一万払えと凄んだら出した。ほくほくして受け取ると相手は妙に明るい顔でもう二万あると言った。聞き返す前に股間へ爪先、鳩尾へ拳が入り、崩れる俺に奴は貯金が百万あると笑う。這って逃げる俺の頭上へ、あっもう一万あったと晴れやかな声。首にスタンガンが触れた。
●傲慢/手紙/表現(アッシャー)
コンセントから電気マンが出、台風だから遊びに行くぜと言って引込んだ瞬間停電になった。スマホも電池切れ、彼とのメールが中断だ。仕方なく蝋燭の下でメールの続きを手紙で書き、彼の返信は妄想で補う。気付くと電気マンが覗いていたのでスマホで殴ると、衝撃で大長編の手紙が撮影・一斉送信された。
●見る/クローゼット/審判(ジャッジメント)
経営改革で極楽と地獄が合併、成功している。生前強欲だった金持が灼熱の厨房でボロ前掛一丁で作らされる料理を善男善女が味わい、その便所の先の糞尿地獄は功徳を積んだ蝿の極楽を兼ねる。成功も道理、これこそ現世そのもので、それに気付いて以来閻魔庁はこれら死者の行いをも来世の目安としている。
●泣く/蓮/王国(マルクト)
王冠は蓮の花を象っており、王子は幼い頃、父王の頭上の花びらを数えたものだ。大飢饉の年、大臣達の節約・備蓄放出の進言を王族は受け入れず、人事入替えを計った。王子は自ら籍を抜けて大臣側に付き、父を冠ごと幽閉した。一介の政治家となった彼は白詰草の冠を贈られ、これは数え切れないと笑った。
●休む/林檎/戦車(チャリオット)
新しいバイト君が鳥人間なので、本社・支社間の荷物のやり取りが非常に速い。何せ本社と各支社は文字通り天と地の距離、なかなか手が回らないのだ。このバイト君、うっかり翼を溶かして死んだ前科があるが仕事はまめなので、支社の供え物の一部を食べる許可を出した。特に金の林檎は最優先隠滅対象だ。
●愛しむ/海/欲望(ラスト)
提灯鮟鱇から灯りの注文を受け、青い紫陽花片手に海へ潜る。青より私が呼吸用にくわえた白い花を望まれ、代りに提灯を貰って戻る道で人魚と会った。白提灯なら付き合うと戯れたらしい彼女がもげた提灯に涙した所へ件の鮟鱇。元通りを望む二人に提灯を返し青い花も贈って以来、庭の紫陽花は銀鱗と光る。
●怨む/飴/愚鈍(エーイーリー)
山奥の叔父が暫く下りて来ない。私も縁談中で訪ねてゆけず、日々が無為に過ぎる。叔父が頭にあるせいか、少壮の士官という相手も冷酷としか映らない。あの狐娘は叔父と情を交わしたのだろうか。思考はどうどう巡りにどん底へ沈み、ある晩猫いらず入りの牡丹餅を作った。小豆をよく煮たから狐も喜ぼう。
●焦燥/森/知識(ダアト)
森の木の葉からふさわしい一枚を見つける命を受けた。無数の葉にはみな違う文言が刻まれ、気が遠くなるほどの枚数を見たがそれらしき一枚は見つからない。先行きの果てしなさに忍耐が切れ、呪いの言葉を思うさま吐くとそれが凝って葉になった。違うと言いたかったが分かっていた。これが私の葉なのだ。
●泣く/流れ星/永劫(イオン)
弟が夢に迷い込んだ。寝言に私が返事したせいだ。彼は現実に絶望していたので、良かれと思ったのだ。が、夢の世界は更に苛酷と見え、うなされ続けている。見かねて隣に眠ると、私の寝言に弟が首尾よく寝言で返事し、私は夢にいた。入れ代りに起きた弟の導き声を頼りに、目覚めるべく流星の欠片を探す。