WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 06

●嗅ぐ/衛星/基礎(イェソド)
 関西方面の言葉遊びとして名高い「チャウチャウちゃう?」に「チャウチャウちゃうんちゃう?」という上位版があることを知ったのはつい最近だ。チャウチャウに似て非なるソレはそもいかなる犬種か。ポメラニアンか茶色いプードルか。いやタヌキ、熊の可能性もある。未知の生物か、無生物かもしれない。

●恋う/絵の具/表現(アッシャー)
 少年は落し主不明の鉛筆や消しゴムを拾うのが好きだった。それらを机の上に広げて出かけ、帰ると自由帳が山やら公園の絵で一杯になっている。彼らが自分で描いた絵へ遊びに行くのだというのが彼の説だ。確かに絵はどれもタッチが異なるが、彼が自分で達者に描くのを見た人も大勢おり、真相は判らない。

●和む/鉄/技(アーツ)
 柄長の巣に托卵された郭公の卵は黄身が二個だった。小さく生れた双子の雛は他の卵を押し出せず、卵に乗られ瀕死で仮親に助けられる始末。結局卵は次々孵り、熾烈な餌争いを制した柄長が皆巣立っても双子は飛べない。翼より先に声ができ巣の中で鳴く双子を時計職人が目撃、以来彼の鳩時計は鳩が二羽だ。

●喜ぶ/栞/正義(ジャスティス)
 家にいた時分、叔父は私の歌で紙人形を幾つも踊らせた。童謡も組体操も彼らは健気に躍り、幼かった私は熱心に「稽古」させたものだ。復員後叔父は毎晩魘され、様子を見た父を廊下まで吹っ飛ばしてしまった。「能力」の底力に恐れ戦く私を慮って彼は家を出、戦場や収容所でさせられた事を今も語らない。

●嗅ぐ/精霊/正義(ジャスティス)
 街灯という街灯がみな花になった。植物たちに苦情を言うと、夜間明るすぎて眠れないと返され、ぐうの音も出ずに暗い道を帰る。大通りは紫陽花、郵便局の横道はツルバラ、踏切の先は山吹。湿った大気が微かに含む匂いを追って日ごと鼻に物を言わせるうち他の事物の気配も知れ、それきり街に街灯はない。

●懐かしむ/階段/戦車(チャリオット)
 戦後、戦車は鋳潰され鉄塔の階段となった。休日には人々が歩いて昇る。家田畑を踏み潰した身には罰と思えた日もあるが、ひとの命を支えるのに変りなく、今度は奪わずに済む。何より甦った街の眺望は好きだ。ある時鉄塔が一枚の写真を受信した。一面の花野に埋もれる錆びた戦車。よう同胞、悪くないね。

●戒める/幻/恋人たち(ラヴァーズ)
 狐なので人語は解さないが心を読め、良人の姪が訪ねて以来良人に茗荷を出している。想う人を狐に取られ望まぬ結婚を控え、姪は自分に一服盛ろうとまで思いつめたらしい。良人を返そうと思ったが離れ難く、せめて自分を忘れさせたかった。だが同じく心を読める良人が噛む花の名…勿忘草を狐は知らない。

●びびる/マグカップ/王冠(ケテル)
 徹夜明けの入稿日、全力の手から消しゴムが緑茶に着弾。水面の王冠が伸び人影となり、手には金銀普通の消しゴム。疲れた頭は古いCMを連想、呟いた「はごろもフーズ」。途端部屋が缶詰で埋まり、腹拵えに開けた桃が原稿に落下。再び現れた影「落し物は?」「原稿」かくて原稿は戻るも消しゴムがない。

●愛憎/梅/基礎(イェソド)
 山奥の叔父の家にはこのところ狐が出るらしい。夜中ふと目覚めた両脇の下に丸々と眠っていたそうで、朝には二匹とも居なかったよと暢気この上ない。庭先の梅が二本になったり縁側を仏像が塞いだりは序の口で、と聞くそばから訪れた二人の幼児に見事な尻尾があり、腰を抜かす私の側で叔父はすまし顔だ。

●飲む/彗星/吊るされた男(ハングドマン)
 一年一度しか会えない織姫と彦星、彼らは幸いだ。心中で生き残った僕は天の川の補修材料集めを言い渡された。星の欠片を飲み宙へ放たれる時、地上へ生れ変った恋人の産声がした。七十六年の長旅で体内の欠片が長い尾となり尽きる頃、集めた材料と引換えに、地上の一生を終えた彼女の笑顔が僕を迎えた。


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