WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 07

●嫉妬/ミルクココア/隠者(ハーミット)
 山奥の叔父の家に場違いな白無垢が下がり、見知らぬ娘が無表情に座している。狐さと叔父は事もない。天気雨で中に引っ込んでいると戸を叩く者があり、開けたら花嫁行列が不束者ですがと頭を下げたそうだ。連中の悪戯を笑って咎めぬので見込まれたに相違なく、唇を噛んだ膝上で土産の菓子が融けてゆく。

●愛しむ/お菓子/醜悪(カイツール)
 山奥の叔父は私の牡丹餅に相好を崩し、案の定重箱を狐娘に預けた。彼女はぺこりと一礼して下がり、程なく奥から三匹程が重箱をあさる音。弟妹狐だ、迂闊にも忘れていた。毒餅などやめて本当に良かった。総身に冷や汗で顔を上げると叔父と目が合った。途端、何かが私の中で切れ、どっと涙が堰を切った。

●噛む/スカーフ/王国(マルクト)
 王様は王国のただ一人の国民だった。ある寒い年、王様は小さな王国をくるくる畳んでポケットに入れ旅に出られた。寒い世界を旅して他の王様方と会い、王国を寄せ合って布団代りに被られた。そこへ他の動物や花も入ったので王国は暖まった。その祝いのご馳走、土台に色々寝かせて温めた物が今のピザだ。

●眠る/髪飾り/技(アーツ)
 明け方、横の妻はまどろんでいる。枕に波打つ髪の合間に彼女の夢が覗いていた。夢の中の妻は職人で、細かなモザイクタイルを一心に並べている。その模様を見たく、そっと髪を除けた。夢の妻が顔を上げ、ばちりと目が合った途端その姿は霧散し、妻が目覚めた。朝食に出た新しい皿はあのモザイク模様だ。

●後悔/桃/美(ティファレト)
 山奥の叔父と狐が帰るのを見送る。猫じゃ猫じゃと仰言いますが…ほろ酔いの叔父が踊る。夜風は頬に快く、満月が綺麗だ。婚約者の失踪に周囲が沈む中、お前は優しいから良い人に出逢えるよと叔父は言う。私の本命は叔父だ、それも狐と幸せで居る叔父だ。オッチョコチョイのチョイ、宵闇に手指が翻った。

●好奇心/魚/知識(ダアト)
 マグカップのコーヒーから魚が顔を出した。新たな環境を知るべく留学中とか。もってこいの場所があると煮え立つ鍋に誘導したが、悪くないですねと動じない。程よくダシの取れた鍋をつつきながら聞くと、彼らの留学先は津々浦々に及ぶとか。備えあればですよと言う魚の視線の先に、隕石接近の新聞記事。

●勇気/廊下/塔(タワー)
 アパートの裏は寺、通りの向いは自然公園で、七階の自室ベランダのすぐ外は野鳥の通り道だ。ある晩外からぼそぼそ話し声「公園の椎の樹を伐るそうだ」「雛をどこへやろう」。なら来いと夢うつつに言った翌朝、ベランダにぎっしりと鳥の巣。抜けた羽を礼に貰い、布団に詰めた晩から自在に飛ぶ夢を見る。

●歩く/角砂糖/根源(アツィルト)
 この葡萄はすっぱい。果実に届かなかった三匹の狐はうっかり漏らした愚痴で負け惜しみの汚名を着た。一匹はハードルを下げ、落としやすい砂糖椰子を採った。一匹は視点を転じ、地に成る苺を採った。一匹は発想を変え、小麦を自分で育てた。かくて三匹の開いた菓子屋は人間の知らぬ所で大繁盛している。

●怪しむ/帽子/宇宙(ユニバース)
 舞台に上がった手品師の帽子の穴から鳩の尻がはみ出ている。笑い転げる客をよそに彼は兎や旗やトランプ等次々出して喝采を浴びたが、鳩だけはついに出なかった。楽屋で訊くと彼は無言で帽子を見せた。中には渦巻く大銀河。全宇宙がこの中に入っており、穴の「詰め物」を抜くと漏れてしまうのだそうだ。

●好奇心/ガーネット/運命の輪(ホイールオブフォーチュン)
 その村は建築物から行事風俗まで伝統の宝庫だ。が、どの世帯も五代前から昔の祖先は具体的な名前も家族構成も一切伝わっていない。家系図等は散逸し、古老の記憶も自らの祖父母辺りが限度で、まるでそこから村が始まったていだ。最近開発で伐採された近辺の巨木は皆、百五十年前付近が明らかに赤黒い。


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