WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 08

●吐く/鉱石/星(スター)
 両親が鉱山労働者で、私は地底を遊び場に育ち鉱山へ勤めた。仕事上りは夜で、頭上はいつも銀河だ。ある日坑道で拾った石は星に似て、なぜか私はそれを呑み終生吐かないと誓った。死後、微かに光る石に導かれ、着いた先には一人の男。憶えがある、前世の恋人だ。彼は天、私は地を巡り、また逢ったのだ。

●舐める/呪文/宇宙(ユニバース)
 どうせ一番旨いのが毒なんだから気にせず食えと父が笑う。夥しい皿小鉢は山海の珍味が山盛りで、只一つ毒入りを当てねば家を継げない。匂いに辟易した目に留まる白飯、これか。生唾呑んだが堪え、ハンバーガーに手を伸ばす。旨い毒だ。頷いた父が口へ運ぶ盃、それを僕は奪った。一番旨い毒、盗み酒だ。

●泳ぐ/骨/慈悲(ケセド)
 拾った万年筆が勝手に動き、絵を描き始めた。よく見るとどれも恐竜やら巨大魚類等の生物だ。訊けば万年筆でなく億年筆で、インクは絶滅生物が変質した石炭製とか。まだ絶滅していない生物は描けないらしいが、昨今消えたピンタゾウガメは出てきた。ドードーの絵がない事実は墓まで持って行くつもりだ。

●眠る/真鍮/醜悪(カイツール)
 数億年前の地層から眠りが発掘された。土と混ざって陶器に焼かれたそれは牢獄に支給され、それで食事した囚人達は数億年分熟成された眠りを毎夜楽しむ様子で、それきり刃向かう者は出ない。次いで軍にも支給されたが、兵士達が明らかに戦を嫌がるようになったため、打開策として敵国に大量輸出された。

●吸う/指/魔術師(マジシャン)
 狐なので総大将には逆らえない。十里四方の狐という狐が集う中で、人の姿の総大将は自分を無造作に掴み上げ哄笑した。相手の心を読み、心を読まれたのを悟り、仰天した。彼こそ良人の姪の許婚なのだ。先の戦で良人をぼろぼろに使い潰した上官がこの男だと、今も良人を苛む悪夢を読んで狐は識っている。

●安心/菊/不安定(アィーアツブス)
 大嵐が去ってみると土地はすっかり駄目になっていた。幸い残った種や苗をかき集め、無事な近所に別れを告げてその地を去った。全財産はリュック一つ分でしかなく、空は抜けるように青い。かねて聞いていた原野は眼前遥かな花畑だ。無くした訳ではない、移ったに過ぎない。地面にぐっと苗の根を埋めた。

●這う/手紙/残酷(アクゼリュス)
 カモメカモメカチンカチンをカ抜きで言え。昔、女子を冷かした僕は「スモミスモミスパイスパイをス抜きで言え」という反撃に沈んだ。時経て今、息子の謎々「五千円札を百枚隠した場所は」に百葉箱と即答した妻は「一冊五千万円の本の題は」と吹っかけた。黙る子に「万葉集」と返す妻の笑顔は昔通りだ。

●見る/薔薇/醜悪(カイツール)
 雨は嫌いだ。傘に篭って道行く人が人に見えない。ある傘はその下に一叢の薔薇を咲かせ、別の傘は二本脚の兎を宿し、或いは見知らぬ街並みを覆い、静々と雨中をゆく。それが各人の前夜見た夢の有様と知ったのは、傘の下の友人が化物に見えた日だ。見た夢を憶えていられないこの私はどのような姿だろう。

●贈る/箱/女教皇(プリエステス)
 最近風呂の水の減りが早く、更に浴槽で冷やしていた西瓜が皮の切れ端を残して消えた。立ち尽くす眼前の浴槽からにょろりと小さな龍。聞けば隣が風水に凝って脈が通じ、この浴槽も水飲み場になった由。残り湯よりはと西瓜を出し続けたせいか予期せず高級果物ゼリーの中元が来たが何故か龍が物欲しげだ。

●疑う/菫/理解(ビナー)
 強盗集団が旅客機を乗っ取るも宗教原理主義テロリストが反撃、抗争勃発。乗り合わせた大国特殊部隊員は共倒れを目論むも露見、手を結んだ二つの団体を敵に回す。狂乱の機内を最後に制したのは座席で息を潜めていた少数民族の独立運動家だ。がパイロットに化けた独裁国工作員により、独裁国へ急ぐ機体。


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