WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 09

●切ない/鉱物/貪欲(ケムダー)
 夢の中の物を決して持ち出すなとあれほど禁じたのに息子が小石を蓄えていた。死んだ妹が川辺で積み重ねる物だそうで、こちらで鬼どもに壊されずに積むのだと言い張る。あちらの物を持ち出したら替りに何かがあちらへ行くのだ。それが証拠に、私の左の目と耳が冥い河原で泣く娘に釘付けのまま離れない。

●憎む/骨/無神論(バチカル)
 熊と狐と猫は友達が欲しく、倒木が動いて松の木坊やとなった時は喜んだが、すぐ悲しんだ。彼を熊は自分より強いと言い、狐は賢いと言い、猫は優しいと泣いた。坊やは自分が火に弱く頭が固く肌が粗いと言い、雷に撃たれて燃えた。悲しんだ三人が消炭で坊やの絵を描くと坊やは甦り、今度こそ皆で遊んだ。

●諦める/衛星/愚鈍(エーイーリー)
 山奥の叔父含め家族で婚約者と対面中だが、実感が湧かず相手の顔を盗み見る。端正な造作の為か叔父より年上な為か、私へ微笑む顔はまだ冷たく思える。やあ奇遇だ、戦争中、彼は部下でね。婚約者が叔父へ目を遣り、叔父がご無沙汰でしたと一礼する。その表情が常の叔父に似ず重いのも思い過しだろうか。

●悲しむ/帽子/魔術師(マジシャン)
 狐なので人間の大戦は話に聞く程度だ。その時分少年兵だった良人は異国へ引っ張られ、能力者だけの秘密部隊に置かれた。始め前線で盾に使われたが、護れる範囲に限度があった。逸らした弾が別の仲間に当たってね、その人らの断末魔が次々押し寄せてくるんだ。彼のそんな記憶に狐は決して深入りしない。

●噛む/麦藁帽子/太陽(サン)
 狐なので夏の帰省先は狐穴だ。所用で街に下る良人の帽子を見送り、ネズ天を提げて帰ると、巣立った弟妹もみな戻っている。集会が近いからで、天ガ下の狐をみな眷属とする総大将がこの山に来るのだ。総大将は普段人間の世界に暮らしており、しかと姿を見た狐はこの山にはない。先の大戦にも出たそうだ。

●冷静/楽器/創造(ブリアー)
 今までにない音の楽器を七日で作らねば死刑だと王に脅された職人は何も出来ず期限を迎えた。御前に召し出された彼は口八丁、楽器はご寝台に誂えますと言った。横たわった王はお楽にと言われ眠り込み、職人は窓の詰物を抜いて逃げた。隙間風で熱の出た王は夢に風を天の楽と聴き、幸せに息を引き取った。

●びびる/金木犀/恋人たち(ラヴァーズ)
 山奥の叔父が私の婚礼で家へ来た。狐も一緒で、婆やは鼠を捕るならと鷹揚だ。明後日に宴を控えた夜、叔父に呼ばれた。今から出かける、式までに戻らない時はこの手紙を兄に渡してくれ。決して狐の側を離れてはいけないよ。叔父はそのままふいと家を出、狐がじっと見送る夜道に金木犀が濃く匂っている。

●偲ぶ/方位磁針/無感動(アディシェス)
 方角を失い妙な山村へ迷い込んだ。村人は皆赤い帽子を被った子供、小さな家々も赤い丸屋根だ。ここの事は内密にと頼まれたが下山後つい話してしまった。と、女が幾人も山へ入ってゆく。間引いた子や夭逝した子が住む村の伝説があるのだ。件の場所に村はなく、赤い笠の茸が一叢。食うと子供に会える由。

●掴む/彗星/美(ティファレト)
 大手各社の格安方針で仕事が激減し、俺達の零細航空会社は別業界に活路を見出した。天国と契約し、あちらの列車を走らせるための線路―飛行機雲を敷くのだ。そこを走る列車はあちら行きの客車が主だが、俺の担当便は貨車だ。前を飛ぶ俺にはあまり見えないが、夜毎満載の星を撒きながら走る様は壮観だ。

●勇気/湖/女教皇(プリエステス)
 狐なので連れ合いに何かあれば判る。どっと脳に流れ込むのは良人の苦痛だ。ああ、あの人が殺される。床でのた打ちながら声を上げると、自分を抱き上げる腕。良人の姪だ。途端じわっと楽になった。まさか、これが彼女の能力か。考える間もなくその能力をそのまま良人に流した。どうか間に合いますよう。

●切ない/階段/醜悪(カイツール)
 昔の部下が息を吹き返した。心を読み舌打ちする。女共め。全員潰そうと部下の顔面を掴む、その手の下で奴が笑った。こいつ、こんな貌が出来たか。だが遅く、流し込んだ能力は狐妻を通じ天ガ下の狐全てに分散されていた。総大将ハ狐ヲ襲フ可カラ不。掟を破った報いに狐達の能力がどっと流れ込んでくる。


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