>隣国の塔の姫の話
●悪態をつく/ベランダ/恋人たち(ラヴァーズ)
姫が隣国の森の塔に幽閉されて二年。国は呑まれ両親は刑場に消えた。許婚の戦死はその前だ。鉄格子入りの小窓から異郷の山を眺め暮らしたある日、王の夜伽の沙汰が下りた。牢番は鉄格子が緩いと呟き、姫は彼の慈悲を察した。姫が身を投げた窓の下に翌春、二輪の花がくちづけるように寄り添って咲いた。
●後悔/牙/運命の輪(ホイールオブフォーチュン)
結果的に姫を死なせた王は併合した国民の恨みを買い、政変で例の塔に入れられた。その後新しい王も倒され、議会が興った後も数年単位で元首が入れ変わった。数十年後に国が安定し、用済みで取り壊されるまでに塔へ消えた者は数知れない。あの花は元牢番の庭に移され、老夫婦の目を毎年楽しませている。
END
>星と恋人たちの話
●飲む/彗星/吊るされた男(ハングドマン)
一年一度しか会えない織姫と彦星、彼らは幸いだ。心中で生き残った僕は天の川の補修材料集めを言い渡された。星の欠片を飲み宙へ放たれる時、地上へ生れ変った恋人の産声がした。七十六年の長旅で体内の欠片が長い尾となり尽きる頃、集めた材料と引換えに、地上の一生を終えた彼女の笑顔が僕を迎えた。
●吐く/鉱石/星(スター)
両親が鉱山労働者で、私は地底を遊び場に育ち鉱山へ勤めた。仕事上りは夜で、頭上はいつも銀河だ。ある日坑道で拾った石は星に似て、なぜか私はそれを呑み終生吐かないと誓った。死後、微かに光る石に導かれ、着いた先には一人の男。憶えがある、前世の恋人だ。彼は天、私は地を巡り、また逢ったのだ。
END