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WORKS三題噺まとめ>2nd Season - 山奥の叔父まとめ

●喜ぶ/ソーダ水/隠者(ハーミット)
 山奥の叔父を訪ねる。世を捨てた癖にラムネは気に入りで、土産の瓶を大事そうに小川へ浸けていた。薄緑に霞む山々は所々桃色が咲き、二人掛ける縁側の足元も踊子草の林だ。結婚はいいがあの男はなあ。問う前から叔父が呟く。周囲が浮かれる中そう云って貰ったのは初めてで、無言の喉にラムネが弾けた。

●愛憎/梅/基礎(イェソド)
 山奥の叔父の家にはこのところ狐が出るらしい。夜中ふと目覚めた両脇の下に丸々と眠っていたそうで、朝には二匹とも居なかったよと暢気この上ない。庭先の梅が二本になったり縁側を仏像が塞いだりは序の口で、と聞くそばから訪れた二人の幼児に見事な尻尾があり、腰を抜かす私の側で叔父はすまし顔だ。

●嫉妬/ミルクココア/隠者(ハーミット)
 山奥の叔父の家に場違いな白無垢が下がり、見知らぬ娘が無表情に座している。狐さと叔父は事もない。天気雨で中に引っ込んでいると戸を叩く者があり、開けたら花嫁行列が不束者ですがと頭を下げたそうだ。連中の悪戯を笑って咎めぬので見込まれたに相違なく、唇を噛んだ膝上で土産の菓子が融けてゆく。

●喜ぶ/栞/正義(ジャスティス)
 家にいた時分、叔父は私の歌で紙人形を幾つも踊らせた。童謡も組体操も彼らは健気に躍り、幼かった私は熱心に「稽古」させたものだ。復員後叔父は毎晩魘され、様子を見た父を廊下まで吹っ飛ばしてしまった。「能力」の底力に恐れ戦く私を慮って彼は家を出、戦場や収容所でさせられた事を今も語らない。

●楽しむ/杯/欲望(ラスト)
 狐なので小豆飯が好きだが人間が食糧難とかで小豆が手に入らない。その代り鼠だけはそこら中にいるので、鼠の天ぷらが新しい好物になった。ただ衣つきの鼠を遠くから油にぼちゃんとやって毛皮を焦がして以来、揚げるのは良人の役目だ。自分は山菜ばかり食うのに嫌な顔もせず弟妹の分まで揚げてくれる。

●怨む/飴/愚鈍(エーイーリー)
 山奥の叔父が暫く下りて来ない。私も縁談中で訪ねてゆけず、日々が無為に過ぎる。叔父が頭にあるせいか、少壮の士官という相手も冷酷としか映らない。あの狐娘は叔父と情を交わしたのだろうか。思考はどうどう巡りにどん底へ沈み、ある晩猫いらず入りの牡丹餅を作った。小豆をよく煮たから狐も喜ぼう。

●愛しむ/お菓子/醜悪(カイツール)
 山奥の叔父は私の牡丹餅に相好を崩し、案の定重箱を狐娘に預けた。彼女はぺこりと一礼して下がり、程なく奥から三匹程が重箱をあさる音。弟妹狐だ、迂闊にも忘れていた。毒餅などやめて本当に良かった。総身に冷や汗で顔を上げると叔父と目が合った。途端、何かが私の中で切れ、どっと涙が堰を切った。

●戒める/幻/恋人たち(ラヴァーズ)
 狐なので人語は解さないが心を読め、良人の姪が訪ねて以来良人に茗荷を出している。想う人を狐に取られ望まぬ結婚を控え、姪は自分に一服盛ろうとまで思いつめたらしい。良人を返そうと思ったが離れ難く、せめて自分を忘れさせたかった。だが同じく心を読める良人が噛む花の名…勿忘草を狐は知らない。

●噛む/麦藁帽子/太陽(サン)
 狐なので夏の帰省先は狐穴だ。所用で街に下る良人の帽子を見送り、ネズ天を提げて帰ると、巣立った弟妹もみな戻っている。集会が近いからで、天ガ下の狐をみな眷属とする総大将がこの山に来るのだ。総大将は普段人間の世界に暮らしており、しかと姿を見た狐はこの山にはない。先の大戦にも出たそうだ。

●諦める/衛星/愚鈍(エーイーリー)
 山奥の叔父含め家族で婚約者と対面中だが、実感が湧かず相手の顔を盗み見る。端正な造作の為か叔父より年上な為か、私へ微笑む顔はまだ冷たく思える。やあ奇遇だ、戦争中、彼は部下でね。婚約者が叔父へ目を遣り、叔父がご無沙汰でしたと一礼する。その表情が常の叔父に似ず重いのも思い過しだろうか。

●吸う/指/魔術師(マジシャン)
 狐なので総大将には逆らえない。十里四方の狐という狐が集う中で、人の姿の総大将は自分を無造作に掴み上げ哄笑した。相手の心を読み、心を読まれたのを悟り、仰天した。彼こそ良人の姪の許婚なのだ。先の戦で良人をぼろぼろに使い潰した上官がこの男だと、今も良人を苛む悪夢を読んで狐は識っている。

●悲しむ/帽子/魔術師(マジシャン)
 狐なので人間の大戦は話に聞く程度だ。その時分少年兵だった良人は異国へ引っ張られ、能力者だけの秘密部隊に置かれた。始め前線で盾に使われたが、護れる範囲に限度があった。逸らした弾が別の仲間に当たってね、その人らの断末魔が次々押し寄せてくるんだ。彼のそんな記憶に狐は決して深入りしない。

●抱きしめる/約束/星(スター)
 狐なので人間の街は不案内だが良人が心配で後をつけた。が、街の入口でバテたため良人に気付かれた。何か閃いた良人はひょいと自分を抱えて胴を風呂敷で包み、人間の赤子のていであやしつつバスに乗る。可愛いでしょう僕に似てますかと堂々たるフカシに、他の客は正しく狐につままれた顔で目をこする。

●びびる/金木犀/恋人たち(ラヴァーズ)
 山奥の叔父が私の婚礼で家へ来た。狐も一緒で、婆やは鼠を捕るならと鷹揚だ。明後日に宴を控えた夜、叔父に呼ばれた。今から出かける、式までに戻らない時はこの手紙を兄に渡してくれ。決して狐の側を離れてはいけないよ。叔父はそのままふいと家を出、狐がじっと見送る夜道に金木犀が濃く匂っている。

●傲慢/オパール/根源(アツィルト)
 昔の部下と呑む。思い詰めた顔で、口を付けた酒が減らない。こいつの能力は人間の中でも強く、その姪を娶ってこいつも配下にすれば狐と人間双方を支配出来る。が、大戦中死ぬ程上下関係を叩き込んだにも関わらず姪のために逆らう気らしい。話し出そうとした部下の頭がぐらっと揺れる。毒酒だ、莫迦め。

●勇気/湖/女教皇(プリエステス)
 狐なので連れ合いに何かあれば判る。どっと脳に流れ込むのは良人の苦痛だ。ああ、あの人が殺される。床でのた打ちながら声を上げると、自分を抱き上げる腕。良人の姪だ。途端じわっと楽になった。まさか、これが彼女の能力か。考える間もなくその能力をそのまま良人に流した。どうか間に合いますよう。

●切ない/階段/醜悪(カイツール)
 昔の部下が息を吹き返した。心を読み舌打ちする。女共め。全員潰そうと部下の顔面を掴む、その手の下で奴が笑った。こいつ、こんな貌が出来たか。だが遅く、流し込んだ能力は狐妻を通じ天ガ下の狐全てに分散されていた。総大将ハ狐ヲ襲フ可カラ不。掟を破った報いに狐達の能力がどっと流れ込んでくる。

●後悔/桃/美(ティファレト)
 山奥の叔父と狐が帰るのを見送る。猫じゃ猫じゃと仰言いますが…ほろ酔いの叔父が踊る。夜風は頬に快く、満月が綺麗だ。婚約者の失踪に周囲が沈む中、お前は優しいから良い人に出逢えるよと叔父は言う。私の本命は叔父だ、それも狐と幸せで居る叔父だ。オッチョコチョイのチョイ、宵闇に手指が翻った。

(了)


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