●かくれんぼ/噛み癖/綱渡り
鳥と獣が戦争になり、双方から支援要請を受けたコウモリはやむなく一族を二つに分けて応じた。戦後この苦肉の策を咎められ両陣営から石もて追われたコウモリは、自分たちの取り分は必ず貰うと言って身を隠した。以来コウモリは夜になると動き出しては鳥の餌の果物をかじり、獣の血を吸って生きている。
●色白/メール/サヨナラダケガ
友人が若くして世を去った。突然すぎて言葉が無く、白紙の手紙を棺に入れた。その返事でもあるまいが、葬儀の日は雲一つない快晴だった。そのまた返事にと、月命日には花火を上げており、翌日は必ず虹だ。一度だけ虹が出なかった日がある。前日は空いっぱいの羊雲、どうも花火の手紙を食ったらしい。
●刃物/三つ編み/夜は短し
晴天からお下げ髪が長々と下がっていた。引っ張るとカチリと音がして夜になった。仕方なくよじ登った髪は一人の女に繋がっており、彼女が太陽なのだ。天上暮しに飽きた彼女に頼まれ一緒に逃げたが捕まった。かくて天の火を盗んだ私は、切り落した彼女の髪で岩に繋がれ、鳥どもに内臓をつつかれている。
●赤/会いたい/サヨナラダケガ
(未)
●制服/金髪/三秒間
(未)
●ナイフ/日傘/ペダンチック
(未)
●イルカ/窓際/夜
夜、カーテンを閉め切り照明を落とし、旧い角灯に火を入れる。途端私の姿は消え、入れ替りに無数の影が壁に踊る。ヒトの影だけでない、ネコやトリ、巨大なサカナ、目に見えぬほどのムシも。彼岸に渡れぬ幽霊を角灯に招き、灯が落ちるまで躍らせてやる。その間私はどこでもない境目で雨音を聴いている。
●青/雨傘/映画
(未)
●怒らないで/悪趣味/トランス
また水上の人間どもが人身御供の娘をよこした。仕方なく私は泣いている娘を連れて洞穴を抜け、花畑へ赴いた。ここには代々の人身御供を住まわせており、果実も花の蜜も好きなだけ採れる別天地だ。彼らは私を神と慕うがその名は私には重い。確かに私はこの川に棲んでいるが大水を鎮める力などないのだ。
●蝶/星空/ぽつり
今年も蝶がひらひら寄ってきた。羽を見ると私宛ての恋文である。戦に取られ死んだ前夫からだ。お前が恋しい時は蝶に心を託すなどと柄にもない事を言ったせいか虫けらのような最期だったそうだ。今の夫と結ばれたいばかりに前夫を戦に出したのは私だ。まとわる蝶は目をつぶっても闇にちらつき離れない。