重すぎる年貢を納めきれない農民が後を絶たず、領主はついに業を煮やした。
ある夜、かれは一人の農夫をひっ捕らえて牢にぶち込むと、そのせがれを呼び出し、明日の昼には首をちょん切ってくれると脅かした。せがれは肝をつぶし、なにとぞお見逃し下さいと地に頭をすり付けた。
「宙に浮く魚、舌を持って歌う魚を探してこい。そうすれば父親の命は助けてやろう」
領主はそう言い、せがれを放り出すと扉のかんぬきを下ろしてしまった。
途方にくれたせがれは仕方なく、街まで夜通し歩いた。夜明けごろに街へ入ったかれは、家という家の扉を片っ端から叩いて回った。
「どなたか、宙に浮く魚、舌を持って歌う魚を知りませぬか」
かれは足を棒にして探し歩いたが、めざす魚は見つからず、ついに街外れのあばら家へたどり着いた。
その家には気難し屋の男が一人で住んでおり、せがれがか細い声で尋ねると、かれは熊のうなるような声で答えた。
「やい、朝からうるせえぞ。そんなに魚がほしけりゃ、これでも持って帰るがいい」
気難し屋は、軒に下がっていたかねの風鈴をせがれの頭にぽんと投げつけ、ぴしゃりと戸を閉めてしまった。
せがれは頭をさすりながら風鈴を拾った。それは魚のかたちをしており、小さな舌がついていて、振ると澄んだ音でりんりん鳴った。
大喜びしたかれは飛ぶように戻り、かねの風鈴をうやうやしく領主にさしだした。
「おおせの通り、持ってまいりました。宙に浮く魚、舌を持って歌う魚でございます」
父親の首をかかしにしてやろうと思っていた領主は、じだんだ踏んでくやしがったが、すぐに気をとり直してこう言った。
「いや、わしは宙に浮く魚、舌を持って歌う魚、二匹持ってこいと言うたのだ。これでは一匹足りぬから、お前の父親を魚にしてくれよう」
そして、横にいたさむらい大将に、父親の両腕を肘からぶった切って、魚のひれのようにしてしまえと命じた。父子は真っ青になって情けを乞うたが、かれは耳を貸そうとしなかった。
さむらい大将が父親の右腕に斧をかざしたとき、かねの風鈴が世にも美しい声で歌った。
かねの魚は風ふきゃ歌う。
お手手ないとて構やせぬ。
そのとたん、領主の二の腕はだらりと下がり、それきり動かなくなってしまった。みながあっけに取られていると、かねの風鈴がまた歌った。
かねの魚にあんよはいらぬ。
糸でつるせばゆうらゆら。
そのとたん、今度は領主の足がなえ、へなへなと床に崩れ落ちてしまった。驚いたかれは斧を引っこめるよう、さむらい大将に命じようとしたが、口からはりんりんと鈴のような音が出るばかりだった。
それを見たさむらい大将はこう言った。
「身の報いだ、鎖でもって、こいつを牢につないでしまうがいいだろう」
こうして、領主は首に鎖をかけられ、牢につながれた。その近くにはかねの風鈴がつるされ、風が吹くたびに澄んだ歌を聞かせ続けた。
農夫は新しい領主になり、せがれとともによく国を治めたということだ。
END