WORKSウソ民話シリーズ>仲の悪い兄弟の話

 むかしむかし、あるところに兄と弟がいた。
 二人は隣同士の家に住んでいたが、とても仲の悪い兄弟で、お互いに口さえきかなかった。
 この二軒の家の間には、大きな大きな穴があいていた。
 おかげで、どうしても相手の家に行かねばならないときは、その周りをぐるっとまわって行かねばならなかった。

 ある日、弟の家のにわとりが一羽、いなくなった。
 それに気づいた弟は、兄が盗んだに違いないと思い、穴の周りをぐるりと回って兄の家にどなり込んだ。
 弟にののしられた兄はかんかんになった。
「おれはお前の家のものは何だってきらいなんだ、どうしておれがお前のにわとりを盗まなきゃならない」
 こう言うと、兄は家に駆け込み、刀を持って飛び出してきた。
 弟も急いで家にとってかえし、負けじと刀を持ち出した。
 兄弟は刀を握りしめ、穴をはさんでにらみ合った。
 兄は弟を叩っ斬ってくれようと考え、穴の周りをまわって弟のもとへ行こうとした。
 しかし、弟も兄を斬ろうとして、兄と同時に同じ方向にまわったので、二人の間はちぢまらなかった。
 それに気づいた兄は、すぐに逆の方向に歩いたが、弟も同じことをしてしまった。
 二人は刀を持ったまま、互いに相手を追いかけて、ぐるぐると穴の周りをまわった。
「おくびょう者!」
「おくびょう者!」
 二人は叫んで相手を追いかけたが、いつまでたっても追いつけなかった。

 二人はしびれをきらして刀を穴に投げ込むと、家にとってかえし、弓矢を持ち出した。
 そして、お互いに相手に向けて撃ったが、矢は穴の向こうまで届かず、穴の中に落ちるばかりだった。
 二人は弓矢も穴の中に投げ込んでしまうと、家にとってかえし、また別の武器を持ち出した。
 それも役に立たず、二人はそれをまた穴の中に投げ込んだ。
 それを何度も何度も繰り返すうち、投げ込まれた武器はいつしか穴を埋め、山のようにうずたかく積もった。
 二人は家の武器を使い果たし、ほこりにまみれてへとへとになっていたが、それでも争いをやめず、最後に残ったこん棒を持って、足を引きずりながら武器の山の周りをまわり始めた。
 しかし、武器の山のおかげで相手の姿は見えず、二人は右回りに回ったり、左回りに回ったりしながらいつまでも歩きつづけた。
 ついに疲れ果てて座り込もうとしたとき、武器の山のふもとの、二つの家のまん中で、二人はばったり出会った。
 二人は、まじまじと相手を見た。どちらも、服はうす汚れ、足を引きずり、疲れ果てた顔をしていた。
 そんな相手の姿を見て、二人の兄弟は同時に笑い出した。
 地べたに座り込み、腹を抱えて大声で笑いあううちに、自分たちが今まで仲が悪かったことが、すっかりどうでも良くなってしまった。
 兄弟は、自分たちが作った武器の山を見上げた。すると、こんな大騒ぎをしてけんかしたことが馬鹿馬鹿しくなった。
 兄弟は、手にしていたこん棒をそろって武器の山の上にほうり捨てた。
 そして、力を合わせて武器の山に土をかけて固め、大きなひとつの山にしてしまった。

 それからずっと、兄弟は仲良く暮らしたということだ。


END


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