階段の一段一段にはそれぞれ秘密が隠されているのだと、あるとき彼女は教えてくれた。
あの段段の、いつもなら人が足を乗せる天板は、ちょうどはね上げ蓋のように開き、中にあるとりどりの物を惜しげもなく自分に見せるのだと。
それはあるときは古代に栄華を極めた王たちの財宝であり、あるときは野の一面を埋め尽くす花々であり、またあるときはまるでプリズムのような光の乱舞であるという。
でも、みんな板子一枚下にそんなものが潜んでいるなんて夢にも思わずに、無造作にそれを踏み越えていくのよ、と彼女は愉快そうに笑った。
――それでね、私、今日からお休みだから、ちょっと泳ぎに行ってくるわ。
そういい残し、彼女は階段の一段を開くと、その中の海へ鮮やかなフォームで飛び込んだ。
END