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WORKS文字書きさんに100のお題>003:荒野

 ただどこまでも、茫漠とした荒野。


「じゃんけん……」
「ぽん!」
 俺はグー、相手はパー。
 額に汗。相手をぐっとにらむ。
「あっち向いて……」
 水平に上げられたその拳のかすかな震えを、俺は見逃さなかった。
 ――下だ!
「ホイ!」
 その瞬間、俺は右を向いた。
 ちらりと目を向けると、相手の人差し指は真下を指していた。
 相手は、歯噛みして指を下ろした。俺は、汗みどろの顔でにやりと笑ってみせる。

「……じゃん、けん、ぽん!」
 俺はチョキ、相手は、パー。
 相手の薄汚れた顔が、ぴくりと引きつる。
 もらった。俺は、心の中で快哉を叫んだ。
「あっち向いて……」
 相手が息を詰める。
 ――左だ!
「ホイ!」
 俺は、真っ直ぐに左を指差した。予想たがわず、相手の顔はその方向を向いていた。
 相手の顔がみるみる絶望に染まる。
 とたん、その首がちぎれ飛んだ。
 どっと倒れる首なしの胴体には目もくれず、俺はその場を離れた。


 俺は座り込んで一息つき、周りを眺め渡した。
 どちらを向いても、無数の死体。荒野じゅうに点々と散らばっている。
 ついこの前見かけたものもあれば、風雨にさらされて顔もわからないものもある。
 ところどころ白い物が落ちているのは、きっと骨だろう。
 そのうちのいくつかは、無論俺が倒したものだ。さっきの奴のように。

「あっち向いて、ホイ」。
 これが、ここの唯一絶対の掟だ。
 俺は、ジャンケンは強い方ではない。
 が、「あっち向いて……」の時の相手の動きを読むのには、恐ろしく長けている。
 ジャンケンに勝った相手の人差し指が、どちらを指すのか。
 ジャンケンに負けた相手の顔が、どちらを向くのか。
 それらが、相手の拳の、顔の、ほんの少しの動きでわかる。
 おかげで、今日までの無数の勝負を生き延びてきたのだ。

 だが、この無益なゲームも、もうすぐ終わる。
 あと一人。
 あと一人、倒せば。

 ふと気配を感じ、俺は振り返った。
 はるか彼方から、一つの影。
 俺は立ち上がり、そちらへゆっくりと歩き出す。


 俺と奴――最後の生き残り二人は、黙って突っ立ったままにらみ合った。
 相手はぼうぼうの髪に無精ひげ。着ている物は汚れきっていた。
 しかし、やつれきった体の中で、目だけが獣のようにぎらついている。
 ひでえナリだ。きっと、俺もそうだろうが。

 相手の体が、かすかに動いた。俺も、ゆっくりと息を吸う。
「……じゃん、けん……」
 ゆっくりと拳を上げる。
「……ぽん!」
 俺はチョキ。相手は……グー。
 獣の目が、にやりと笑う。

 ――平気だ、平気だ。今までだって上手くやれたろうが。
 これさえ乗り切れれば。

「……あっち向いて……」
 ぐっと下腹に力を込める。
 相手の拳が、ゆっくりと上がる。
 その、人差し指は……

 ――上だ!

「……ホイ!」
 俺は、思いきり右を向いた。

 一瞬の静寂。
 俺は、ちらりと相手の拳に目をやった。と――

 たかだかと天を指しているはずの人差し指はそこになく、

 相手の……親指が、俺の向いている右側を、真っ直ぐに指し示していた。

 全身の血が、ざあっと引いていった。
 とたん、俺の首が飛んだ。


END


WORKS文字書きさんに100のお題>003:荒野