その大木には、かつてより様々な生き物が住んでいた。様々な鳥に始まり、リス、サル、そして虫たち。どんな大きさでも、どんな姿でも、木は拒まずに迎え入れた。
そこへ、あるときから新しい生き物が住み始めた。
人間だ。
初め、彼らは木の下に家を作っていた。広い枝葉を屋根の上の天蓋とし、慎ましく住まっていた彼らは、より外敵から身を守りやすくするため、動物たちに習って木の上に移動した。
大木の上の家は、そのうち小さな集落となった。じき近隣の木々にまで広がるようになり、にぎやかなムラとなった。
が、やがて、隣のムラとの戦争が起こった。ムラは戦争に押しつぶされ、そのまま隣ムラに飲み込まれた。
自分がもっと高い木ならばよかったろうか。涙に暮れるムラ人を抱え、木は思った。
それをよそに、ムラはさらに拡大した。一本の木に無数の家が乗り、ふんだんな実や葉を暮らしに使い、かつて呑まれた民族ともども発展は続いていく。
あるいは、これでよかったのかもしれない。木がそう思い始めた頃、ムラは新しい展開を見せ始めた。
木を降り、農耕を始める人々が出たのだ。その流れは止まらず、人々は大地の上に広がり始めた。
だが、子供達はこれまでどおり遊びとして、また生活の糧を得るため木に登った。木は生活の場でなくなったにしろ、憩いの場であり続けた。
そこへ新たな災厄が見舞った。飢饉だ。
飢え果てた末、人々は自分の土地を捨てて別の地へさまよい出た。木はときおり流民たちを留めるのみになった。やがて木は盗賊のねぐらになり、また時々彼らを役人が木に吊るした。
それがようやく下火になり、人々はまた畑に戻り始め、活気が戻ってきた。
街道は整備され、村は街となって木々を囲い、木の下を大勢が行き交い、また集っては休んだ。
やがて街は都市となり、レンガは鉄筋コンクリートとなり、平屋は高層ビルとなり、繁栄は永遠に続くかと思われた。
拡大に継ぐ拡大の末の末、訪れたのはまたしても戦争だった。が、これまでとは桁違いの戦争だった。
いくつもの爆弾で家々は吹き飛び、木々は焼け、人間の姿は消え失せた。
大木はまだ立っていた。枝は無残に折れ、葉は落ち、幹は焦げ、それでもまだ瓦礫の中に立ち続けていた。
途方もないような月日が過ぎ、大木が立ったまま朽ちた頃。
うろの中に、久々に生き物の気配を感じた。ずいぶんと懐かしい、人間の親子だ。
やあ、生き延びていたか。ボロをまとい身を震わせる彼らを、木はなにも言わずにうろへ匿った。
雨があがった後も、彼らはその場を離れなかった。そこに掘っ立て小屋が作られ、石のかまどに火がおこった。
小屋の柱になり、たきつけになったのは大木のかけらだ。そうやって、また木は生きてゆく。
END