道路ぎわにバイクを寄せ、彼はタバコに火をつけた。
ガードレールに寄りかかり、崖の下を覗き込む。
目のくらむような高さ。落ちたらひとたまりもないだろう。
……さて、と。
出発することにし、彼は火を消すつもりでガードレールにタバコを押し付けた。
とたん、ガードレールが蛇のように跳ね、ぐわっと彼に巻きついた。
「なっ、わ、おわ!」
崖下に落とされる恐怖に駆られ、彼は闇雲に手足を振り回した。
「それ」は彼を捕まえたままぶんぶんと振り回すと、ぽいと道路にほうり捨てた。
しりもちをついたまま呆然とする彼の目の前で、「それ」は甲高い哄笑を上げながら、ひらひらと崖下に飛び去った。
* * *
「ああ、今でも『出る』んですよ、この辺り。まだまだ辺ぴですからねぇ」
近くの民家に駆け込んだ彼に、そこの主人はしみじみと言った。
――そういや、ゲゲゲの鬼太郎にそんなのがいたような。
衝撃覚めやらぬ頭で、彼はぼんやりと考えた。
END