彼は、いつもハイネックの服を着ている。
それは時々はマフラーだったり、バンダナだったりするけれど。
たまに、どうして、と訊かれたら、好きなんだ、と言うことにしている。
そうすれば、もう誰もそれ以上は訊いてこないから。
彼には双子の弟がいる。
弟、といっても、「彼」がそう主張しているだけで、本当は兄のはずだったかもしれない。
あるいは、妹? 姉? そうかもしれない。
でも、「彼」がそう言っていることだし、彼にも異存はなかったので、今日に至るまで「彼」は彼の弟なのだった。
彼は、若く見える、とよく言われる。
彼の本当の年齢は三十歳だけれど、見た目は二十歳そこそこだ。
そして弟は、今、十歳ほどに見える。
彼らは、同じ時間を二人で分け合っている。
だって、二人で一人なのだから。
うららかな日差しが道に踊る日、彼はよく散歩に出かける。
弟は、こんな天気が好きなのだ。
公園のかたすみのベンチに腰を下ろし、彼は遊ぶ子供たちや、餌をついばむ鳩を眺める。
そして、誰も見ていないとき、彼は首の右側に手をやり、タートルネックを少しだけ下ろす。
そこには、
首筋からほんの少し浮き上がるように、小さな唇、鼻、そして閉じられた両の目。
……十歳の少年の、顔。
――分かるかい、いい天気だぞ。
心の中で、彼は弟に話しかける。
――分かるよ、兄さん。
彼の心に、弟が返事をする。
END