WORKS文字書きさんに100のお題>026:The World

 違う世界で起こった出来事を「受信」できる人々が、その世界にはいた。

 ある者は言う、まるで自分が居合わせたかのように、頭の中に情景が浮かぶのだと。
 ある者は言う、まるでパズルを作り上げるように、頭の中で事実の断片が組み合わさっていくのだと。

 例えばそれは、剣と魔法に支配され竜の飛び交う世界のことであった。またそれは、いまだこの世が持ち得ぬ技術で作られた機械の群れが日常を埋め尽くす世界のことであった。あるいはそれは、見知った日常そっくりの日常が送られる見知った世界そっくりの世界のことであった。

 つまり、ありとあらゆる世界のありとあらゆる出来事をそれとは知らず受け取る能力が、彼らには備わっているのである。

 そうして人々に受信された出来事は古今東西種々雑多の事物を含み、日々膨大な量に上っている。
 しかし、圧倒的多数の人々の脳に去来した圧倒的多数の出来事は、語られることも書かれることもなく、人々の死もしくは忘却とともに空しく消え去る定めにあった。
 とある小国の姫君と、隣の大国の騎士との悲恋。自動販売機の下から出てきた10円玉。自らの意思を持ち、最強を目指して戦いあう、旧式の斧と最新式の電気銃その他諸々の武器。事の軽重を問わず、事実たちは日々受信され、日々消えていった。

 だが、ある者は手すさびに、またある者は止むに止まれぬ思いから、人々のいくたりかは受け取った出来事のいくたりかを記録する。
 それが現実に起こったこととは知りもせず。


 そうして生き残ったそれらがつまり、「物語」と呼ばれるのだ。


END


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