WORKS文字書きさんに100のお題>028:菜の花

  戦争の果てに人類の姿が消えて久しく、巻き添えを免れた生き物たちは緩やかに世界を維持していた。
 そのほとんどはもともと存在していた種族だが、中に新顔もいくたりか見られる。人類の忘れ形見、兵器たちだ。

 戦争の終焉とともに存在意義を失った彼らは、主の後を追って朽ちる運命にあった。メンテナンスのすべもなく機能が止まってゆく中、彼らの多くは最後の生のよりどころを他の生き物との共存に求めた。
 実際、頑丈で無私な彼らは共生向きだった。火薬が湿気って土の吹き込んだ爆弾の殻はおのおのが箱庭である。水底に沈んだ船は魚たちをかくまい、大砲の筒からは小動物たちが活発に出入りした。

 変り種は羽ばたき式の小型戦闘機だ。戦争末期の物資不足にあって風力を動力源とした彼らは、今なお自ら動き回れる数少ない生き残りである。戦時中を諜報と破壊工作に過ごし、彼らは余生を鳥たちの育成に送っていた。
 凍てつく冬じゅう腹の中に巣を匿い、その間に生まれた雛たちが季節風に乗って巣立つ前、同じ風で彼らもその翼を動かす。自ら育んだ子らが力尽きずに渡れるよう、来る日も来る日も彼らは雛たちを先導して飛行練習に励む。

 旅立ちの日、雲間へと次第に小さくなる若鳥の群れをじっと見守る彼らの周りで、菜の花が静かに季節風に揺られている。


END


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