恐怖におののく標的――国防大臣の眉間に、彼は冷徹に弾丸を撃ち込んだ。
相手の死を確認すると、そのまま部屋を出、夜の闇に消える。
無論、尻尾をつかまれるような手がかりなど残しているわけもない。
「ターゲットは始末しました」
専用の携帯電話で、彼はボスに連絡した。
『ご苦労。次も頼むぞ』
それだけ言い、ボスは電話を切った。
こうして、事件は迷宮入りとなった。
* * *
人殺しだの非情だの、人は彼をそう言う。
殺し屋に情などあってたまるか。彼はそう思う。
そして、それはその通りである。
「殺人マシーン」などと言われたこともあった。
そうじゃない、自分はベンディングマシーンだ、と彼は思う。
金次第で、相手の望む商品――殺しを提供する。
自分はそのための機械に過ぎず、標的は商品に過ぎない。それが、彼の哲学だった。
* * *
「国防大臣は消しましたよ」
彼のボスは、依頼人に笑顔で告げた。
「ありがたい。これはお約束の10万ドルです」
依頼人は、トランクを差し出した。
「しかし、例の彼、相変わらずいい仕事をしますな」
ゆったりとソファに腰かけ、依頼人はボスに話し掛けた。
「ええ。いい殺し屋ですよ。……ま、腕が落ちたら処分しますがね」
笑いながら、事もなげにボスは言ってのける。
「おや、手厳しい」
「私はね、自分をベンディングマシーンだと思っているんですよ」
「ほう、ベンディングマシーン」
「ええ。金次第でお客さんに殺し屋を提供する……ね」
「すると、彼は商品ですか」
「もちろん。代わりはいくらでもいますしね、缶ジュースみたいに」
END