WORKS文字書きさんに100のお題>031:ベンディングマシーン

 恐怖におののく標的――国防大臣の眉間に、彼は冷徹に弾丸を撃ち込んだ。
 相手の死を確認すると、そのまま部屋を出、夜の闇に消える。
 無論、尻尾をつかまれるような手がかりなど残しているわけもない。

「ターゲットは始末しました」
 専用の携帯電話で、彼はボスに連絡した。
『ご苦労。次も頼むぞ』
 それだけ言い、ボスは電話を切った。

 こうして、事件は迷宮入りとなった。

 * * *

 人殺しだの非情だの、人は彼をそう言う。
 殺し屋に情などあってたまるか。彼はそう思う。
 そして、それはその通りである。
 
 「殺人マシーン」などと言われたこともあった。
 そうじゃない、自分はベンディングマシーンだ、と彼は思う。
 金次第で、相手の望む商品――殺しを提供する。
 自分はそのための機械に過ぎず、標的は商品に過ぎない。それが、彼の哲学だった。

 * * *

「国防大臣は消しましたよ」
 彼のボスは、依頼人に笑顔で告げた。
「ありがたい。これはお約束の10万ドルです」
 依頼人は、トランクを差し出した。

「しかし、例の彼、相変わらずいい仕事をしますな」
 ゆったりとソファに腰かけ、依頼人はボスに話し掛けた。
「ええ。いい殺し屋ですよ。……ま、腕が落ちたら処分しますがね」
 笑いながら、事もなげにボスは言ってのける。
「おや、手厳しい」
「私はね、自分をベンディングマシーンだと思っているんですよ」
「ほう、ベンディングマシーン」
「ええ。金次第でお客さんに殺し屋を提供する……ね」
「すると、彼は商品ですか」
「もちろん。代わりはいくらでもいますしね、缶ジュースみたいに」


END


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