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WORKS文字書きさんに100のお題>037:スカート

 ――そろそろ起きるかな。
 ――まだ、眠ってますね。

 そんな声が毛布の向こうから聞こえる。いつも聞きなれた、両親の声。
 頭まで毛布にくるまったまま、彼はその声に耳を澄ます。

 ――だが、今はもう……
 ――わかってますよ。お願い、言わないで。

 身じろぎ一つせず、じっと耳をそばだてる。自分が目を覚ましていることを、今は知られたくなかった。

 ――もう少し、寝かせておいてやりましょうよ……

 優しい声。
 毛布の端をそっと上げると、父親の黒いズボンが見えた。母親は気に入りの花柄のスカートだ。どちらも、彼は子供の頃から知っていた。

 不意に、家のドアを叩く音。思わず身を震わせた。
 両親が凍りついたのが気配でわかる。
 やがて父親が立っていき、ドアの開く音がした。

 ――やあ、朝早くから申し訳ない。昨夜、あんたのとこの噂を聞きましてな。

 戸口から、抑えた声。村長だ。彼は身を固くした。
 ぼそぼそと父親の声がする。中身は聞き取れなかった。
 少し間があって、村長の言葉が聞こえた。

 ――あんたらの気持ちはよく分かりますよ。私だって、この戦で倅を亡くしたからね。だがね、これは決まりなんだよ……

 顔が引きつっていく。
 言わないでくれ。どうか、その先を。



 ――死んでしまった者が、この世に留まるわけにはいかんのですよ。



 ぐっ、と喉から声が漏れた。

 その時、彼の肩をさっと抑える手を感じた。
 彼は無我夢中で毛布から手を出し、それにすがりついた。ひどく震えて止まらない彼の手をぎゅっと握り返す手。
 今まで当たり前だと思っていた、その何と暖かいことか。

 ――ご迷惑おかけしまして、申し訳ございません。

 玄関先から、父の声。

 ――今すこしお待ち下さいまし。あれが眼を覚ましましたら、私どもの方からよくよく言って聞かせますので……

 頭の上から母の忍び泣く声がする。
 その手を包むように、彼は震える両手を組み合わせた。

 ……お願いです。どうかもう少し、もう少しだけでいいですから、ここにいさせてください……

 その掌を額に押し当て、つぶやくように、すすり泣くように彼は祈っている。


END


WORKS文字書きさんに100のお題>037:スカート