人工知能にも前世はあると神様はおっしゃいました。
わたくしは無人爆撃機をいたしておりました。戦争中はあちらの街、こちらの村と飛び回り、敵の人々を見つけ出しては火の雨を降らせたものです。
幾年もそうしておりますうち、見下ろす地面はずいぶん焼け野原が増えました。あちら側でもわたくしの名は知られたものと見え、人の姿を探すのは難しくなり、時折わたくしに向けて鉄砲玉が飛んできたりもいたしました。
戦争も終わり近くのある日、わたくしに不思議な荷物が積み込まれました。
見たこともない赤青黄色、金や銀。色も形も目眩くばかりに様々なそれらは、みな子供用のおもちゃやお菓子です。
――あちらと仲直りすることになったから、ひとっ飛び行ってこれを配ってきておくれ。きっとみんな、お前のことを大好きになってくれるさ。
偉い方はそうおっしゃると、わたくしを送り出しました。
その日いっぱい、わたくしは働きました。
戦火で焼け出された人々に、それを作ったわたくしが役立てるのです。子供たちの笑顔もさざめく声も低く飛べばきっと分かるでしょうし、いつかそのうち――事によると――小さな子の一人二人くらいだったら、乗せて一緒に飛べる日が来ないとも限りません。
わたくしはほうぼう飛び回り、子供のいそうなところを見つけては、おもちゃとお菓子をありったけ降らせました。一目で分かる貧しい村や、家をなくして道端に住む人のところには、とくべつ念を入れて撒いたのです。
効き目はすごいものでした。
心も弾むとりどりのおもちゃも、まばゆい金紙銀紙をまとったお菓子も、みな一つ残らず小さな小さな爆弾だったのです。
帰り道、わたくしは考え続けました。
偉い方は、みんながわたくしを好きになってくれるとおっしゃいました。けれど、たった今地べたのそこここで起きているありさまを見るにつけても、そういう風になるとはどうしたって思えないのです。
考えて、考えて、考え続けているうちに、とうとう何も分からなくなりました。
神様によれば、わたくしは海に落っこちたのだそうです。あまり考えすぎて、とうとう頭脳が焼けてしまったのでした。
――お前はこれから、殺した子供の数だけ、天国と地上を行き来しなければならないよ。
神様はそうおっしゃり、それからわたくしは、死んだ子供たちを天国へ乗せてまいるようになりました。
毎日毎日、事故や病気で命を落とした子供たちがわたくしに乗り、天へ向かいます。雲の上でわたくしから降りると、それまで青白い顔で泣いていた子供たちは、怪我も病気もすっかり治ってしまいます。そしてばら色の頬で楽しげにスキップしながら、わたくしが入ったことのない天国のおごそかな門をくぐり、向こう側へと行ってしまうのです。
子供たちの笑い声がすっかり聞こえなくなると、入れ替わりに、幾人かの天使が出てきます。
天使たちはみなその腕の中に、大事そうに赤ん坊を一人ずつ抱えています。これから地上に生まれる子供なのです。
その子たちをそっとわたくしに乗せて、天使たちは静かに扉を閉めます。
――さあ、気をつけて、揺らさずに連れて行っておくれ。
その言葉を聞くたび、わたくしはいつも、なるたけゆっくり飛び上がることにいたしております。
END