WORKS文字書きさんに100のお題>048:熱帯魚

 ふらりと入ったペットショップで、ふらりと熱帯魚を買ってしまった。

 柄にもないことをした訳はたぶん、その魚の外見だろう。
 ほっそりとして大きさは金魚ほどだが、その体はまるでガラスのように透き通っていた。
 骨も内臓も透明で、ただ目玉だけが銀の球のようにちらちらしている。
 熱帯魚のくせに、英名はアイスフィッシュだとか。

 ――その魚、珍しくてね。でも一週間かそこらしか生きられないんだそうです。買い手が見つかってよかった。
 珍しいと言った割には、店の親父は大した値をつけなかった。魚の寿命のせいだろうか。

 * * *

 常温で飼ってもいい魚だそうで、さっそく水槽に移した。
 餌は花びらだという。半信半疑でコスモスをちぎって入れてみると、魚はくるっとそれを飲み込んでしまった。
 アイスピンク。透明な腹の中に、桃色がひっそりと沈んでいる。

 魚はそれ以来、何も食べなくなった。
 心配したが、当人? は別に弱る気配もなく、ひらひらと泳ぎ回っている。
 ただ変わったことといえば、一日一日、体内の花の桃色が薄れていくのだった。

 * * *

 ある朝、水槽を覗いてみると、魚は跡形もなく消えていた。
 跳び出したかとあわてて探したが、その姿は見つからなかった。

 ふと水面に目をやると、透明な物が浮かんでいた。
 つまみ上げると、それは花びらの形をしていた。
 あの魚と同じく色のない、まるで氷。

 そう言えば、今朝はちょうど一週間目だ。それだけ浮かんだ。


END


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