ふらりと入ったペットショップで、ふらりと熱帯魚を買ってしまった。
柄にもないことをした訳はたぶん、その魚の外見だろう。
ほっそりとして大きさは金魚ほどだが、その体はまるでガラスのように透き通っていた。
骨も内臓も透明で、ただ目玉だけが銀の球のようにちらちらしている。
熱帯魚のくせに、英名はアイスフィッシュだとか。
――その魚、珍しくてね。でも一週間かそこらしか生きられないんだそうです。買い手が見つかってよかった。
珍しいと言った割には、店の親父は大した値をつけなかった。魚の寿命のせいだろうか。
* * *
常温で飼ってもいい魚だそうで、さっそく水槽に移した。
餌は花びらだという。半信半疑でコスモスをちぎって入れてみると、魚はくるっとそれを飲み込んでしまった。
アイスピンク。透明な腹の中に、桃色がひっそりと沈んでいる。
魚はそれ以来、何も食べなくなった。
心配したが、当人? は別に弱る気配もなく、ひらひらと泳ぎ回っている。
ただ変わったことといえば、一日一日、体内の花の桃色が薄れていくのだった。
* * *
ある朝、水槽を覗いてみると、魚は跡形もなく消えていた。
跳び出したかとあわてて探したが、その姿は見つからなかった。
ふと水面に目をやると、透明な物が浮かんでいた。
つまみ上げると、それは花びらの形をしていた。
あの魚と同じく色のない、まるで氷。
そう言えば、今朝はちょうど一週間目だ。それだけ浮かんだ。
END