あるいはそれを「神」と表現してもいいわけだが、実際のところは光――降り注ぐ陽光であるからして、ここではそれを「光」と呼ぶことにする。
光は自らの存在に満足していた。はるかな高みから雲を突き破ってまっすぐに降り立ち、地をさんさんと満たし、ありとあらゆるものを育み慈しむ自分自身に。
そしてその威光と慈愛とを疑うものは、地上には何一つ存在し得ないし、事実しない。
はずなのだが。
地を這うようにその腕をのばし、手近な木に巻きついて上へ上へと伸びていく葡萄のツタ。
なんて醜いのだろう、と光は思う。
分不相応もいいところだ。自分で自分を支えることもできないくせに、天を目指そうとするなんて。
だがそう思う意識の中に一点、いら立ちが含まれていることに、光は気づいていた。
周囲にへつらうように身を低くし、媚びるように他人に身をからめるくせに、気がつくとあちこちの隙間に自在に身を這わせ、ついには自分が身を寄せるモノ全てを覆い尽くしてしまう。
自分が見下していたはずの者のしたたかさ。それが光にはうとましいのだ。
だが光は知らない。葡萄が光の心に気づいていることを。のみならず、光自身も気づいていない、さらに奥まで見透かしていることを。
光は雲を突き通し、傲慢なほど真っ直ぐに地に降り注ぐ。
しかしその傲慢さが、同時に陰影という存在をも生み出している。
自らを曲げることを拒み、曲がるすべを知らない光にとって、それは決して打ち破ることのできないものだった。
だが、葡萄は。
あんたは私を馬鹿だと思ってるでしょうけどね、あたしはほら、あんたが手の届かないところにだって行ける。壁の裏側にも木々の隙間にも、どこへだって。
悔しかったらここまで来てごらん。
心の中で言いながら、葡萄は葉をひらひらと振ってみせる。夏の光にいまいましげに叩かれるその裏側は無論、濃い陰だ。
END