かん……かん……かん……かん……
乾いた音が響く。
――3、2、1で飛び込むんだ。なに、怖いのなんてほんの一瞬さ。
教えてもらったその言葉を、頭の中で繰り返す。
今にも口から飛び出しそうな心臓と、震える足と。
それらを必死で抑えながら、彼はただ前方をにらみすえ、走るペースをぐっと上げる。
……かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん、かん(3、)、かん(2、)、かん(1、)、
かんっ(跳!)!
……ごおおおおおおおおおおおおおおおおおううぅぅぅぅ!
耳をつんざく風の音。彼は、ばっと翼を開いた。
とたん、ふわりと体が軽くなる。
(――やった!!)
回廊の端まで飛んで帰った彼に、先生は満足げにうなずいた。
「よし、踏み切るときのコツは分かったな。あとは一人で飛べるだろう?」
「はいっ!」
彼――新米の天使は、元気よく答えた。
「じゃ、私は先に帰るからな」
先生はひらひらと手を振って、回廊を歩いていった。
彼は、回廊のふちから下を覗き込んだ。
目もくらむほどの高さ。天国の、ここはまさしく「へり」だった。
……さっき、ここから飛んだんだ。
彼は誇らしげに立ち上がると、先生の後を追って回廊を走っていった。
軽い足音が、回廊に響く。
かん、かん、かん、かん……
END