少女は、鳥を殺すのが好きだった。
何故かは知らない。
とにかく、鳥を殺すのが好きだった。
ばたばたと暴れる鳥の首に、その細い指をかけて、ほんの少し力を込める。
ただ、それだけ。
ただそれだけに魅せられて、少女は鳥を殺し続けた。
そして、動かなくなった鳥の翼から、少女は必ず風切羽を抜き取るのだった。
それらは、まるで輝かしい戦利品のように、お菓子の空き箱にたまっていった。
死んだ鳥を、少女は荒れ野の木の下に埋めた。
その白い手で、柔らかな黒土を少し掘り返しては鳥を入れ、土をかける。
満足そうに立ち上がって、小走りに家へ急ぐ。
あとには、何もなかったように木がそよいでいるのだった。
* * *
ある日、少女はいつものように、羽の箱と死んだ鳥を抱え、あの木の下に行った。
土を掘り起こそうと地面に手をかけたとき、すぐ横にぽとりと何かが落ちてきた。
見ると、鳥の風切羽だった。
それを手にとり、ふと上を見上げた少女の口から悲鳴が上がった。
木の葉が、みな鳥の風切羽になっていた。
少女は、逃げようと鳥の死体と箱をつかんだ。
鳥の死体は、幾枚もの羽に変わっていた。
彼女は再び悲鳴をあげ、それらを放り出した。
不意に、風が起こった。木から落とされた羽が、幾枚も少女の周りに落ちてきた。
それらはあとからあとからばらばらと音を立てて降りそそぎ、彼女の罪を責めたてた。
少女は立ち上がることができないまま悲鳴をあげ続けた。
と、地面に投げ出された箱が、かたかたと小刻みに震え始めた。
言いようのない恐怖に駆られながらも、彼女はそれから目をそらせないでいた。
そのとき、風が強さを増した。
そしてその中に、地の底から湧きあがるような無数のはばたきを、彼女は確かに聞いた。
END