WORKS文字書きさんに100のお題>058:風切羽

 少女は、鳥を殺すのが好きだった。

 何故かは知らない。
 とにかく、鳥を殺すのが好きだった。
 ばたばたと暴れる鳥の首に、その細い指をかけて、ほんの少し力を込める。
 ただ、それだけ。
 ただそれだけに魅せられて、少女は鳥を殺し続けた。

 そして、動かなくなった鳥の翼から、少女は必ず風切羽を抜き取るのだった。
 それらは、まるで輝かしい戦利品のように、お菓子の空き箱にたまっていった。

 死んだ鳥を、少女は荒れ野の木の下に埋めた。
 その白い手で、柔らかな黒土を少し掘り返しては鳥を入れ、土をかける。
 満足そうに立ち上がって、小走りに家へ急ぐ。
 あとには、何もなかったように木がそよいでいるのだった。

 * * *

 ある日、少女はいつものように、羽の箱と死んだ鳥を抱え、あの木の下に行った。
 土を掘り起こそうと地面に手をかけたとき、すぐ横にぽとりと何かが落ちてきた。
 見ると、鳥の風切羽だった。
 それを手にとり、ふと上を見上げた少女の口から悲鳴が上がった。

 木の葉が、みな鳥の風切羽になっていた。

 少女は、逃げようと鳥の死体と箱をつかんだ。
 鳥の死体は、幾枚もの羽に変わっていた。
 彼女は再び悲鳴をあげ、それらを放り出した。

 不意に、風が起こった。木から落とされた羽が、幾枚も少女の周りに落ちてきた。
 それらはあとからあとからばらばらと音を立てて降りそそぎ、彼女の罪を責めたてた。
 少女は立ち上がることができないまま悲鳴をあげ続けた。

 と、地面に投げ出された箱が、かたかたと小刻みに震え始めた。
 言いようのない恐怖に駆られながらも、彼女はそれから目をそらせないでいた。

 そのとき、風が強さを増した。
 そしてその中に、地の底から湧きあがるような無数のはばたきを、彼女は確かに聞いた。


END


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