「……梅雨前線は一週間後には後退し、日本中に晴れ間がのぞくでしょう……」
画面には、週間天気予報。
北から南までずらりと並んだ雨傘の一番右端、ちょうど一週間後の部分だけに、わずかに太陽マークの赤が見える。
――また「一週間後」?
今年日本列島を覆っている梅雨前線は、例年とは明らかに異なる様相を呈していた。
七月どころか八月に入っても一向に雨足が弱まる気配がなく、毎日毎日、必ず一度は馬鹿律儀にぱらぱらと来る。
おかげで傘屋はさぞ大もうけだろうと思われるが、降られる身としてはかなわない。
そしてもう一つ、この梅雨には妙な特徴があった。
毎日必ず「一週間後には止む」兆候が見られるのである。
週間天気予報の一週間後の欄には、毎日例外なく晴れマークが見られた。しかしそれは日付がいくら変わろうと一向にずれる気配もなく、いつまでも一週間後の位置に止まり続けている。
気象庁には連日苦情が殺到するが、誰にどうする事ができるわけでもない。
かくして待ち望んだ「一週間後」はいくら待っても来ることはなく、気象予報士はげっそりとやつれ、今日も雨は降り続けている。
ため息をついて、彼女はテレビを消した。
――まったく、いいかげんにしなさいよね……
彼女は、どんよりと煙った窓の外をいまいましげに睨んだ。
しかしそれは所詮、嫌になるほど続いた愚痴の延長でしかなかった。
この状況がどうにかなるなどという期待を、人々はとうに捨ててしまっていた。
だが結局、大方の予想に反して、変化は起こった。
夜半過ぎから強まった雨は夜が明けても弱まることなく、轟々と降り続いた。
各種の警戒宣言や警報が飛び交う中で右往左往する人々を尻目に雨はなおも降り続け、次の日には文字通り「天の底が抜けたような」豪雨となっていた。
そしてその晩、あちこちで河があふれ、堤防が決壊し、街々を押し流した。
雨は七日七晩降り続け、地上の全てを荒野へと変えた。
そして、八日目の朝。
彼女は、雲間からのぞいた太陽の光に目を細めた。
――あら、当たったわね、天気予報。
彼女は、汚れはてて元の姿も知れないぼろきれを拾い上げ、微笑んだ。
――いい洗濯物日和だこと。
END