もう何年も戦に出ていた夫が、ある晩ふいに帰ってきた。
再会に驚き、喜びながらも、やつれ果てたその姿に妻は涙を流した。
小さな家の中で二人はいつまでも抱き合い、その晩はそろって床に就いた。
夜が明けてみると、夫の姿はなく、ぼろぼろに錆びて銃弾の穴のあいた鉄兜が転がっていた。
* * *
もう何年も戦に出ていた夫は、長い道のりの末、ようやく我が家にたどり着いた。
懐かしいドア。飛び出してきた妻は彼を抱きしめ、その背をなでて泣いた。
小さな家の中で二人はいつまでも抱き合い、その晩はそろって床に就いた。
夜が明けてみると、妻の姿はなく、家のあった場所はただ一面に雑草が茂っていた。
* * *
「あれっ、君も死んでたの」
家など跡形もなくなった草地を見回しながら、夫は声をあげた。
「あなたこそ、死んでたのねえ」
足元に転がる鉄兜を見つめながら、妻はしみじみと言った。
「ずいぶん長いこと、待ったのよ、ここで」
「ああ。僕も、ずいぶん長いこと歩いた」
二人は少しの間沈黙し――やがて顔を見合わせ、同時にくすくすと笑いだした。
「……まあいいさ。積もる話なら、『あっち』へ行く道すがら、しようよ。話したいことがたくさんあるんだ」
夫は、笑いながら妻に手を差し伸べた。
「そうね。なんにせよ、また一緒になれたんだから」
妻も微笑んで、その手をとった。
END