WORKS文字書きさんに100のお題>099:ラッカー

 ご多分に漏れずここ鈍底銀座も、不況にあえぐ商店街だった。
 昭和の頃は地元買い物客で賑わった通りに往時の華やぎはなく、その両側にはシャッターが延々と軒を連ねている。
 だが、街がゴーストタウン化したかといえばそうでもない。昼間こそ閑散としているものの、深夜ともなればそこは若者のたまり場と化し、朝には彼らの名残として、店々のシャッターはとりどりのラッカーに彩られているのだった。
 振興会にとって目下最大の懸案事であるこの落書きは、会メンバーの涙ぐましい見回りや清掃にも関わらずいっこうに減じることがなかった。「落書き禁止!」の貼り紙など無論何の効果も果たさず、当初は除去といたちごっこだったその繁殖は次第次第に旺盛となり今や商店街中にその領土を広げつつあった。

 そんな中、打つ手なしと思われた振興会がついに一計を案じた。
 日暮れ前に普段通り落書きを消した後、全てのシャッター横に貼り紙をしたのだ。

「毎日更新中!」

 かくして商店街の迷惑行為はモダンアートへと一変し、不良少年も芸術家へと姿を変えた。日ごと姿を変えるその様を見ようと多くの観光客が訪れ、商店街は労せずして往年の活況をとりもどした。


 なお、大人たちのこうした手のひら返しに嫌気の差した若者たちが落書きの標的を別の地域に定めたことにより、鈍底銀座が一年を待たずきれいなシャッター街となったことは言うまでもない。


END


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