WORKS防人歌今様>「召集に引かれて君の手を離れ」

「召集に引かれて君の手を離れ、さよなら、この島々を越えてく」

 船べりを掴み、身を乗り出す。が、離れゆく岸に彼女の姿など見えるはずもない。

 いとしい娘。その側から、召集で、連れ去られるように離れてきた。
 噂でしか聞くこともない遠い遠い道を来、さらに想像もしなかった海へ出、多島海を進んでいく。

 もう幾つ、島をたどったろう。

 一つ一つ島を過ぎるごとに、彼は、自分をからめ捕った「神威」とでも呼べそうなものに近づいていくのを感じる。
 そして、彼の愛していた者は、ただ遠ざかるばかりで。
 恐らくは、もう二度と届かないほど遠く。

 さよなら。

 この海を通って、僕は永遠に行くけれども。

 さよなら。

 たとえ千の力が隔てても、千の島を越えても、僕の居場所はずっと、君の隣だけ。


大君の命畏み愛しけ真児が手離り島伝ひ行く
 巻二十・4414 大伴部小歳


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