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WORKSイベント即興小説>薔薇と菫

 由来は知らないが、彼女の商業高校とはグラウンドをはさんで敷地が繋がっていた。
 より正確には、商業高校、私の普通科高校の間に大きなグラウンドがあり、そのほぼ中央を二つの体育館、一つのプールがほぼ真っ二つに仕切っていた。グラウンドの一部は繋がっており、プールは共用である。
 そんな状態にもかかわらず、二校のあいだで生徒の行き来はさほどなかった。近すぎることが問題なのかもしれない。
 それでも、中学校時代から仲がよかった私は、放課後は彼女の高校へ時々顔を出した。つるんでいて楽しいというのもあったが、他校の友達を訪ねるというシチュエーションそのものがまず、何ともいい響きだった。
 あるときなど彼女は、(なぜか)部室にあったという商業高校の制服を貸してくれた。商業のバラの徽章をくっつけて高校内を闊歩しながら、私たちはスパイか何かのような気分でくすくす笑ったものだった。
 その割に、彼女が私の高校に来た記憶はない。聞けば、私も知っている同級のいくたりかとあまり仲がよくなかったのだという。

 ――それにさ、あんたんとこ頭いいし。スミレの花っていえば有名じゃん?

 彼女はそんなことを時々漏らしていた。スミレは、進学校のはしくれに属している私の高校の校章である。要は地方によくある偏見がひびいているのであって、実質的には彼女と私の高校の学力は大差ないのだ。
 私はどちらかと言えば、三年かけて実用的な専門技能を叩き込む商業高校や工業高校のほうに憧れていた。商業にもぐりこんでいたのは、そんな理由もある。

 *  *  *

 文芸部だった彼女が、学祭用の合同誌を作らないかと言って来たのは三年の春である。
 前年の商業祭。部誌の販売所だった文芸部室の店番をしていた彼女と、例のごとく入り浸っていた私とで、一緒に何か書けたら楽しいだろうねえと話し合っていたのだ。
 発刊は一号限り、同人誌一冊出すのとほぼ同じ要領だ。「通常の部誌にも原稿を出す」「合同誌は彼女(と私)が自力で作る」を条件に出し、部長の子から文芸部で売る許可をもらったという。
 その後、夏休みをまるまる使って、私たちは大はしゃぎでミッションに取り組んだ。二人とも詩やら短編を何本か書き、両方の友人も何人か寄稿してくれた。
 とどめに、私と彼女二人して、とんちきなリレー小説を書いた。
 主人公はバラの国の女魔導師とスミレの国の王室親衛隊員。魔族の侵攻に脅かされる二国に育った二人はともに、両国の国境上の聖なる泉に封印された宝玉を取ってくる密命を帯びていた。両国間に広がる平野を越え、国境の検問を突破し、泉にたどり着いた二人は、宝玉をめぐって一旦は争う。しかし、それを奪おうと襲来した魔族に対抗して手を結び、最終的には魔族を打ち倒して大団円となる。
 まあ今読み返すと床を転がりたくなる出来ばえだが、それでも私たちの「特別号」は無事にその年の学祭に間に合った。寄稿してくれた私の側の友人が普通科高校の文芸部だったため、本は両方の学校の出店に並んだ。文芸部間の交流ルートに乗って、他校にも少し回してもらったと思う。

 *  *  *

 そんなことを思い出したのは、今も付き合っていて半年ぶりに会った彼女の口から「現役の後輩たちがアレの続きを出したがっているらしい」という話を聞いたからだ。
 正直爆弾発言だった。大人になってしまうと、あれはやはり相当気恥ずかしいシロモノである。白状すれば、全冊回収して燃やしたいねえなどと彼女とネタにしていたくらいなのだ。
 だが、仮にそんなことができたとしても、部室保存分だけは(倫理的に)どうしようもない。今在学中の後輩たちが読んだのもそれだという。
「いやね、あたしも一回は断ろうと思ったの。でもその子たち、両方の学校で何人か友達同士だっていうのよね。で、あんたに相談してみるって言っちゃった」
 こう言われては、首を縦に振るしかない。
 あの本を思い出して背中が痒くなるのは変わらない。が、あの妙な敷地の二校、そのあいだの平野を越えてつきあっている今の誰かに繋がるなら、それはそれで浮かばれるというものだ。

「でさ。あの裏表紙のマーク。あれも使いたいんだって」

 裏表紙のマーク。あの合同本のために、美術部の子に作ってもらったシンボルだ。リレー小説でもちゃっかり使い回し、ラストで魔族を封印するために主人公たちが使う魔法陣となったのだ。
 言うまでもなく、バラとスミレが合わさった文様である。


END


※友人たかあきさんのリクエスト。ホントは、薔薇と菫はタイプの異なる美女の例えではあるけど、ご愛嬌。


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