同じ亀がもう五回も引っかかってきたので、浦島太郎は手を止めて亀をじっと見つめた。
三日前にようやく嵐が去り、漁に出られたというのに、昨日一昨日はいくら頑張ってもごみしか取れなかった。
いい加減腹も減るし、やる気も無くなる。だが、さぼって何にありつけるわけでもない。老いた両親ともども飢え死にする訳にはいかなかった。
だから、今朝一番で大きな亀がとれた時、太郎は飛び上がらんばかりに喜んだ。しかも、見たこともない五色のこうらを持っている。市で売れば、目玉が飛び出るほどの値がつくだろう。
しかしすぐに、待てよと思った。この亀を売れば確かに自分は儲かるだろう。けれど、その後きっと、浜にはこいつ目当ての漁師が押し寄せてくる。こいつの仲間はすぐに獲り尽くされ、皆いなくなってしまうはずだ。
「美しいこうらなど持っているばかりに、それでは気の毒だ。どこへでも逃げるがいい」
太郎は亀を放してやり、また漁を続けた。
だが、しばらくして網に手応えがあったと思うと、かかっていたのはあの亀だった。
少しばかり悪い心が起こった。さっき逃したあと、もったいないことをしたと、本当は少し後悔していたのだ。しかし太郎は亀を放してやることにした。
「一度逃がしたものを捕まえては、道理が通らない。私はこの亀を逃がしてやることにしよう」
なのに、亀はまた網にかかった。今度は、太郎は腹を立てた。もしかしてこいつは船の周りで待ち受けていて、近くに来る魚をみな食べてしまっているのではないかと思ったのだ。
それでも、太郎は亀を放してやった。
「腹が減っているのは私も同じだ。こいつばかり責めても仕方あるまい」
亀がまた戻ってきたので、太郎は考えこんでしまった。一体こいつは、何か私に言いたいことでもあるのか。もしや、私のために、市場の売り物になってやろうと思っているのではあるまいか?
いや、と考えた。進んでとりこになりたがる生き物などこの世にはいないのだ。
「鶴は千年、亀は万年というぞ。お前は今、何歳になるのだ。ここで命を無駄にせず、万年生きるがいいではないか」
そして五回目、亀はまた太郎の網にかかった。
こうなってくると、亀がなにやら可愛く思えてくる。人間でもなし、まさか知恵があるとも思えないが、太郎は亀に話しかけた。
「おい、お前に心があるなら聞くがよい。私は漁師だから、魚を取らねばならぬ。しかし、お前が私といたいなら、邪魔をしなければ好きにしていいぞ」
太郎は亀を水に降ろしてやり、漁を続けた。あいつ、もう一度戻ってくるかな。今度は少し楽しみだった。
END
※サークルWonderworld Studioの相方モクタンからのリクエスト。彼の次回作が浦島太郎だそうで、期待期待。