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WORKSイベント即興小説>カチューシャ/おじさん

 好きになった男が実は猫又だったので、両親に会わせた夜の家族会議は荒れに荒れた。
 妖怪ったってちゃんとした男の子の格好だし大丈夫よと言う母と、そんな得体の知れん輩を容認できるかという父が真っ向からぶつかった。勿論私は母と並んで一歩も引かずに父とやり合い、弟はさっさと部屋へ引っ込んでしまった。

 結局互いに折り合わないまま物別れとなり、気まずい数日が流れたある晩。
 カップラーメンを作ろうと一階に降り、居間の前を通りかかった時、中から微かに聞こえる妙な音に気付いた。機械の音のようだが聞き慣れず、首を傾げながらドアを開け……

 中にいた父と目が合った。

 双方五秒は硬直していたと思う。驚愕の表情で固まる父は私の目を見ていたが、私の視線は父の頭上に釘付けになっていた。
 そこに鎮座していたのは間違いなく――状況的には間違いでなければおかしいのだが――猫耳だった。

 くたびれた中年男の、それも実父の、ついでに妖怪嫌いの頭にである。
 口を開けたままリアクションが取れない私の眼前で、「それ」はゆっくりと動いた。あの機械音。そこでようやく、おぼろげながら事態が飲み込めてきた。最近売り出した、脳波で動くオモチャだ。
 それでもかける言葉は見つからず、そっと居間の戸を閉めようとした時、中から半分ひっくり返ったような声がした。
「しゅ、瞬がくれたんだ」
「瞬が?」
 弟の名だ。
「あ、ああ。まずは形から入るのがいいとか言って……」
「……ふーん」
 瞬め。家族会議をバックレたと思ったらこれを頼んでいたか。くだらないが、まあ悪くない。
「とりあえずさ、来週末あたりもう一回連れてくるから、また会ってくれる?」
「うむ」
 父の威厳を取り繕ったような返事にあわせ、間抜けなモーター音と共に両耳が寝た。

 * * *

 その後我が家で開かれた二度目の食事会で、やはりと言うか猫耳は話題に上った。必死で話題を逸らそうとする父と必死で笑いを殺そうとする彼を横目に見ながら、私と母と弟で父をいじり続けること十分。
 父がおもむろに足元から猫耳を取り上げ、重々しく装着した。
 しかし、肝心の父の猫耳は死にかけのセミのような音とともに弱弱しく痙攣し、それきり動かなくなった。
 電池切れである。練習しすぎたのだ、たぶん。
 あからさまに落ち込んだ父の横合いから、弟が何かの箱を突き出した。
 脳波で動くシッポ。
 ここで限界に達したらしい彼が盛大に吹き出し、猫耳と二本のシッポ(本物)を出してしまった。

 その後、母が電池を入れなおした猫耳とシッポを父が着け、全員で記念写真を撮ったのを彼の両親に送った。
 数日たって、写真のお礼と共に父へ脳波で動くシッポ(二本目)が届いたのは別の話だ。


END


※イベント参加者、Kさんからのリクエスト。うん、一度書いてみたかった、こういうの。猫耳まで盛りました。うん、楽しかったです。白状します。ありがとうございました!


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