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WORKSその他単品>雨ふり秘密基地

 今日び絵入りのビニール傘など珍しくもないが、それなりに値が張るし、やはり思い入れのある絵の方がいいに決まっている。
 で、高校時代、ビニール傘に模様を描くのが流行った。トンガっていた友人の一人などはトライバル模様の名人で、雨のたびに教室で誰かしらの傘にペンを走らせていた。
 そうなると、そういう人間と友達でない限り、絵心のない人間は自然と割を食うことになる。気にする風でもない奴だって何人かはいたが、友人やら他のみんなが傘に絵を描いているところを遠くから横目で見ている連中も、雨の日の風物詩ではあった。
 ついでに俺なんかは、その手の奴の近くで模様付きの傘をくるくる回してこっそり優越感に浸る、あまりタチのよくない人間だった。

 *  *  *

 で、ハルという奴がいた。クラスでも特定のグループにいるわけでなく、古典が得意である以外に印象は薄い。
 そのハルが変わった傘を持っているという噂が流れた。例の友人が別の傘仲間から聞きつけたようで、「職業」柄やはり気になるらしく、面白そうだから訊いてみないかという話になった。
 それまで俺たちとほとんど絡んだことのないハルだったが、声をかけるとちょっとためらった様子で、それでも傘を開いて見せてくれた。
 ペンでなく、カッティングシートの単純な図形を組み合わせて模様をつける、簡単だが高校生には流行らなそうな方法だった。モチーフも鳥、キノコ、自動車(絵本に出てくるみたいな、単純なやつだ)など、何と言うか、随分幼い。
 そして妙なことに、そのどれもが途中ですっぱり切れていた。
 どうしたんだ、これ。聞いてみたが、

「うん、まあ、ちょっと試してるだけ。説明が難しいんだ」

 ハルは言葉を濁し、それっきり黙った。煙に巻かれたていの俺たちは首をかしげたが、すぐにそのことを忘れた。

 *  *  *

 ひと月ばかりして、そのハルがもう一度、小さな噂になった。
 幼稚園ぐらいの女の子の手をひいていたというのだ。あいつ変態じゃねえかと(もちろん冗談で)笑う奴もいたが、大半は親戚か知り合いの子だろうと目星をつけて済ませており、俺もそのくちだった。

 それから間もない雨の帰り道、他でもない俺がその光景に行き会った。
 灰色の公園。しゃがみ込む制服の後ろ姿は間違いなくハルだ。左側に赤いレインコートの子供がぴったり身を寄せている。
 二人の上を、あの傘がすっぽり覆っていた。

「……すると、木の陰から鳥が出てきました……」

 ハルの声、手の中の傘がくるりと回った。

 瞬間、謎が解けた。
 あの傘の絵柄。現実の木にあの鳥の絵を合わせているのだ。傘の中から見ればきっと、本当に鳥が顔をのぞかせているように見えるに違いない。
 ブランコの上に魚。家の窓から怪獣のしっぽ。女の子のくつくついう笑い声はいかにも愉快そうだ。
 ハルめ、考えたな。感心する俺の前で、傘の中の物語は続いていく。

「……家の向こうから、自動車が……」

 そう言って、不意に二人がくるりとこちらを向いた。
 ハルと目が合った。途端にバツが悪い空気になり、俺は悪い悪いと手を振ってその場を離れた。

 後日、気になった俺は、あの物語の続きを聞いたが、ハルは笑って答えなかった。
 ただ、あの女の子は離婚して母方に引き取られた妹なのだと、それだけは教えてくれた。


END


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