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 今やこの地上があまねく人間の天下であることを疑う者はない。
 モザイクの色合いも美しい石畳の両脇には、築四百年を数える石造りの壮麗な建物が立ち並ぶ。市場は殷賑を極め、肌の色も様々に行き交う人々の衣服は花さながら翩翻とひるがえる。四辻ごとに陣取る音楽家たちの奏でる音色に溶け、焼き菓子や花の香りが漂い流れてゆく。

 賑わいは日が落ちてなおしばらくは止むことを知らないが、やがて闇の深まりとともに人々は眠りにつき、灯りはひとつまたひとつと星星に取って代わられる。

 そして月が天頂を横切り、時計の針が零時を回ったその瞬間、石造りの家々は言うに及ばず人の手が作ったものはことごとく紙細工へと姿を変え、ぱたぱたと地に倒れて薄く平たく折り重なる。時を同じくしてそこかしこの地面から化石の木々が立ち上がり、太古の森へと茂ってゆく。
 その間をうっそりと歩き始めるのは過ぎ去りし世の王者、恐竜たちである。

 やがて朝の光が空を裂き、彼らの姿を宙に消してしまうまで、楽園は夜のしじまにただ在り続ける。


END


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