暑い盛りに水浴びをしていて、タイルの割れ目でうっかり指を切った。洗面器に滴った赤い水滴は一時水中で揺らめき、目を凝らした時には一匹の金魚となって泳いでいた。
それで思い当たった。
人間関係に悩み、部屋にこもりがちになった友人がいた。殺風景だった彼の部屋にはいつからか水槽が置かれ、中を泳ぐ金魚は彼の顔を見に行くたびに少しずつ増えていた。寂しさに耐えかねて買い足していたのだとばかり思っていたが。
いつものように訪ねたある日、彼はバスタブの中で冷たくなっていた。手首にはひと目でそれと分かる傷。そして何よりその傍ら、人の背丈ほどもある巨大な巨大な金魚が、心中でもしたかのように彼と並んでバスタブに収まっていた。
END