140字三題噺 -1st season
100本完遂済。配布元:ついのべ三題ったー
一応の目次
001-025
女/情報/予測
当たると評判の新人お天気お姉さんが北部から首都圏へ栄転した。が、その実績が彼女に片思いした北部担当の雨雲の仕業である事を知る者は少ない。首都圏担当の雨雲が彼に岡惚れし、お姉さんを憎んでいる事を知る者も少数だ。当のお姉さんは渇水に苦しむ西部出身で、本当はそこに雨を降らせたいのだ。
年齢/連絡/フラスコ
鳩サブレーは若い頃、百貨店で逢った16歳下の幼女ひよ子に恋をした。彼は平面、彼女は立体、壁を越えるべく彼は実験を重ね、完成した薬でひよ子二次元化に成功。ひよ子サブレー誕生である。実験の様は鎌倉本店限定トランプのスペード柄に残され、ハート柄は彼が伝書鳩よろしく彼女に贈った事で有名。
火星/プール/ドーピング
サメが出たのでプールは中止となり、児童は校内最凶と名高いアヒルに望みを託した。睨み合う両者、舌戦の火蓋がついに切られる。「フカヒレ野郎!」「北京ダックが!」ここで沈黙、各々が自分達を搾取する真の敵に気付いたのだ。「人間共め!」怒りは軍神の雄叫びと化し、ここに最強タッグが爆誕した。
爆竹/無差別/桜並木
熊追いに燃やした竹が弾け、無数の男が飛び出した。揃いの法被に褌一丁、祭囃子と共に威勢よく神輿を担ぎ回すから実に暑苦しい。聞けば、自分の不在を歎く地上を慰めようと、かぐや姫が国中に仕込んだとか。速やかにお帰り願いたいが次の十五夜は来年だ。僕を尻目に祭のボルテージは頂点に達してゆく。
人肌/プール/責任
最終兵器アヒルがプール占拠犯サメとまさかの協定。万策尽きた児童会長(12)は腹切って果てんと周囲の制止も聞かずプールサイドへ乗り込んだ。だが諸肌脱ぎの彼に何を思ったかサメは見事な鮫肌、アヒルは手触り抜群の羽毛を見せ付ける。かくて名誉の死は幻と散り、男泣きに吠える児童会長(12)。
アブノーマル/難易度/連絡
鯨の群れを漁船で巧みに誘導し山車に見立てる海外の奇祭が、環境団体から抗議を受けた。曰く、知的生物である鯨に危険であると。後の研究で祭中の鯨の会話が「まーた若い奴のヘボ操縦か」「今年も俺らが誘導だな」「チッ(クリック音)」と解読され、抗議は尻すぼみとなったが祭も緊迫感が倍加した由。
年齢/液晶/群れ
墜多地獄…SNSに溺れ死んだ者が墜ちる地獄。発光する石が落ちている荒野。亡者達がモバイルの光と間違え、拾って呟こうとすると上空から鳥の落とした鯨に潰される。流行りの風が吹けば彼らは甦り、同じ事を繰り返す。その様を若手獄卒が写メって閻魔帳(獄内イントラ)に流す不祥事も後を絶たない。
雪/責任/録画
雪の結晶を撮影すると写真と共にランダムな単語が出てくる「ユキモジ」というお遊びアプリがある。複数撮れば文章も適当に作れるので、試みに手袋の上の一粒が解ける経過を三枚撮って実行すると、崩れゆく結晶と共に「手のひら 脱出 ゲーム」と表示された。どうも一生消えない十字架を負ったらしい。
かさぶた/液晶/戦友
携帯からシールの残骸を剥がし、ストラップを新調してやる。七年物ながら親指一弾きで開く手応えは小気味いいし、テンキーの確実性も捨て難い。ついに先日、携帯という民族の終焉を見届ける同盟を友人と組んだ。普及の規模を見てもさぞ壮大な最期だろう。なお、携帯の予測変換にガラケーの文字はない。
意識/プール/連絡
プール落雷の速報、児童会長敗北以来厳戒体制の学校は沸き返った。聞けばサメの背鰭を直撃した由、神意ととった児童達はプールへ攻め寄せた。が、そこには人事不省どころか無傷のサメ、同じく万全のアヒル。これが神意か。膝をつく児童の眼前で水面が波打った。今の電気刺激で命が、命が発生したのだ。
幼児/速度/牛乳瓶
昔の級友に、開栓した牛乳瓶をくわえ込んで真上を向き、重力の勢いで落ちる牛乳をそのまま飲み干すという男子中学生特有の技能を持つ男がいた。そして、その耳元で「哺乳瓶」と囁き、彼の口を起点とする半径三メートル以内に白い毒霧を発生させた挙句、後始末をたった一人でやらされた男がいた。私だ。
キャンディ/頭痛/残業
最近の無理が祟って頭が重く、喉も痛い。スーパーで水飴を一壜買って出るとカナリアが肩に乗ってきた。喉を傷めて歌えないと耳元で囁くので水飴を一匙やるとどうした訳か、道すがら色とりどりの鳥たちが来る。ついには空壜片手に布団へ倒れ込み、翌朝我に返ると、水飴の壜は七色の飴で満たされていた。
アブノーマル/未対応/モデル
廃品置場でスマホは初めてポケベルに逢った。数字しか送れずネットとも無縁な相手に呆れ、卑猥な発音の数列を送る衝動にもかられたが、披露した時事ネタを大層喜ばれてやめた。ポケベルは機械が寿命らしく、お礼に昔流行った数列0833を教えて黙った。スマホは保護付きでそれを保存した。オヤスミ。
日曜日/老人/ランプ
日曜なので日喰鳥は日を喰いに出掛けた。羽という羽を伸ばして陽を受け、上機嫌で帰った。残り六日は飼主の婆さんを手伝う。昼は鶏小屋の狐を追っ払い、夜は目の悪い婆さんのため針仕事の横で光って手元を照らす。家の鼠は食べ放題だし婆さんは果物をくれる。日光ほどでなくとも日喰鳥はそれが好物だ。
カーテン/募集中/ネックレス
敵軍の包囲を打破すべく青年は義勇軍に入り、恋人の娘は身代りの首飾りを贈った。国は破れ、青年を捕えた敵の将校は首飾りを没収し、進駐先で見初めた娘に贈った。首飾りを見た娘は口先で承諾し、共に敵陣へ赴いた。その間に起った反乱で二人は銃を向けられたが、首飾りに気づいた青年は銃口を下げた。
黄/化粧品/リスク
トイレに忘れたポーチを取りに戻ると、開けた跡はあるが無事だった。まずポーチが一面毒キノコ模様、中のペンも忠実に魚や野菜の形、手帳は樹皮柄エンボス、財布は蛇柄、コスメは蝶のアレ。止めにスマホは赤や黄の天道虫シールで冬眠を再現。かくて賊さえヒいたポーチは友人達より魔ノ森の名を賜った。
約束/トランク/味覚
巨大製薬会社社長誘拐で逮捕された青年は、同社傭兵隊が潰した少数民族の村出身だった。廃車トランクから見つかった社長は全身が村特産の茸の苗床状態で、新薬に要るそうだから進呈したと青年は言った。咎める刑事に彼は死者を苗床とする伝統を教え、食べもしないのにさんざ殺しておいてと吐き捨てた。
情報/景色/一人
世界の果てを見つけよと王は言った。人々はあらゆる方角へ散ったが、陸を行った者は戻って来てしまい、空や海を目差した者は帰らなかった。万策尽きたと思われた時、一人の子供が落書きの風景を見せ、これが世界の果てだと言った。ここからいくらだって描き足せると。こうしてこの物語が始まったのだ。
カーテン/戦友/筋肉痛
芝居を観に来た筈が、上がった緞帳の向うも満員の観客。彼方と此方でしばし茫然、だが客がいる以上何か演らねばと義侠心に駆られた者達が中央に踊り出る。かくて台本無しの即興劇が開幕。熱狂は全員を巻き込み、劇場の外へ際限なく膨張。時所構わず観られ、演じねばならぬ世界が誕生した。――ネット事始
すごろく/赤/筋肉痛
家族で双六をやっている。私の出す数は1や2だけで進まず、ついにコマが疲れて倒れた。サイコロに文句を言ったら振り方が悪いという。悔しくて赤い目を睨んだら、目を伏せるように6が出た。快哉を叫んだがそれを見た家族もサイコロを睨み始め、グレたサイコロはすべての面を1の目にして睨み返した。
録画/猫なで声/模様
飼い猫のサビ模様がたまに違っている気がしてカメラを仕掛けた。七日目で模様が変っていたので問い詰めると「よくぞ見破った。猫缶欲しさに時折兄弟が入れ替っておったのだ」との事。なら一緒に飼うから兄弟を呼んで来いと言うと「有難き幸せ」と言いながら五、六匹がぞろぞろ現れた。おのれ謀ったな。
国/CD/羊
睡眠改善のため全国民にデータディスクが配布された。起動して寝ると柵を跳び越す羊が脳内再生される仕様。だが製造過程でバグが混入、たまにヤギが軽々と柵を越えてそのまま絶壁に登りだし、目が離せず寝過ごす人が続出。なお稀にカモシカも出現、速やかに柵から出さないと密猟扱いで自動通報される。
群れ/保護色/擬人化
祖父のお年玉はジグソーパズルだった。拍子抜けしながら組み立てると、凧を背景に狸と小鳥がコタツでお屠蘇を呑んでいる絵。「狸」「小鳥」の名前に赤線が引いてある。閃いて凧のピースを抜き取ると、薄く「あけまして」の文字。ピースを二つに開けるとくり抜かれた中に「お目出度う」の紙と一万円札。
白昼夢/書簡/ご飯
しろやぎさんとくろやぎさん、二匹の恋は色違いゆえ互いの親の猛反対に遭い、唯一許された文通も検閲がついた。想いを綴ることもできず、せめて同じ色になる夢を見て白ヤギは白い紙、黒ヤギは黒い紙を贈っては食べている。読む前に食べた云々は外野へのミスリードで、本当の中身を知るのは二匹だけだ。
ペナルティ/Web/群れ
「お前の資産を差し押えた」という微かな声に戸棚を見ると米粒程のクモが茶筒に巣をかけている。猪口才なと茶筒を取ろうとしてよく見れば巣の糸目が記号状で、クモ文字で「差押」とか。面白いので教えろと言うと夏期講習十回との事。一回ユスリカ三匹で手を打ったが新手の訪問販売にかかった気もする。
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026-050
味覚/責任/味覚
流行に乗って鉢植えの木にツリーハウスを作ったら豆粒ほどの鳥に棲み付かれた。外だと雀やメジロに追われるというので置いてやったら仲間を呼ばれ、大きくない木が村の様相。そのうち彼らの主食とする実が鉢に落ちて芽吹き、義理堅い彼らは家賃にと分けてくれた。人間には少々渋いが有難く頂いておく。
銃弾/群れ/スキップ
虫に本を蜂の巣状態に喰われ、止め跳ね払いも判別不能だ。文句を言うと、不要な本ならと自分達の物語に書き換えたのだそうだ。穴……連中の文字は平面の目視でなく、長さ深さ角度等、入って体感で読み進めるとか。ウォータースライダーや巨大迷路に行ったらどんな物語を読み取るのか、聞きたくはある。
連絡/紅葉/頭痛
何ぶん春なので山が笑うのは当然だ。が、連日夜中まで少々かしまし過ぎやしないか。国内では新山と呼ばれる部類の山々のこと、箸が転がってもおかしい年頃なのか。単に陽気のせいか。山ガールもといギャル山どもめ、この分だと秋には蛍光色モミジででも粧いかねない。化粧禁止の通達を出すか悩ましい。
記憶/夏休み/ゲーム
魔窟とされる呑屋街へ行った。ぬるい風の中赤提灯の並ぶ階段道を奈落の闇へ降りる。両側の店は呪文じみた賑わいで人を誘い、酔客は踊る足で店から店を巡る。降り切った物陰でそっと獲物を確かめた。ずしりと重い印伝の財布。と見る間にそれは縮み、魔よけの小石に変じた。呆然とする耳にどっと笑い声。
ゲーム/爆竹/虹
友人とふざけて花火を向けた地面の穴が何らかの妖精もしくは妖怪の巣だったらしい。その後花火をするたび飛び散る火の粉がみな極小の人影となり、地に落ちるや走って消える。火事にはならないものの気味悪く、魔よけのつもりで爆竹を鳴らしたら破裂音の替わりに無数の囃し声が白昼をどよもして消えた。
骨/骨/タバコ
大理石を切り出した池には水草が涼しげにたなびく。時折金魚たちがよぎり、縁に貼り付いたカワニナは微かに藻を食んでいる。大理石のアンモナイトは豆粒のような後輩の掃除を喜び、同じくシーラカンスは赤い後輩たちに太古の海を物語る。いつか全てが煙と消えても、ここは別天地のまま石と化すだろう。
変態/シャボン玉/白鳥
原油流出事故で黒光りの海鳥曰く、カツオドリでも今唄えばスワンソングかね。それを洗う石鹸曰く、僕の身にもなれよドロドロで歌の風情もありゃしない。カツオドリ黙して半刻、やっと油を落とした石鹸曰く、おいまだ別の鳥がいいかい。カツオドリ曰く、やっぱり俺の歌にする。そうかと満足げな宙の泡。
黄/絆創膏/青
小学校ではお洒落厳禁だったので、初めて交換した指輪はマスキングテープだった。友達ご自慢のレトロアクセサリー柄ので、練り消し半分と引換えに少し貰った。私は琥珀で彼はエメラルド、石の意味も知らぬままこっそり巻きっこした指輪は誰の目にも止まらず、私はそれを眺めてその日じゅうを暮らした。
菜の花/約束/老婆
日記が宿題だったが、辛い事を残すのは嫌だ。祖母に言うと、なら一つ花を描きなさいと教えてくれた。こうして花の絵が上手になった頃、祖母が他界した。大人達が遺産を分けている横のお供えは一昨日の花だ。私は隣室で畳ほどの画用紙にありったけ花を描いていて、画用紙を描き潰しそうなのに足りない。
ゲーム/風邪/短歌
学校には熱が出たと言い、いつもの植物園へ行く。一枚ごとに凩を薄めるドアの最奥は亜熱帯、鳥が幾羽も放たれ、運がよければ果物も貰える。携帯で開くサイトは遠方の友人達と続ける会員制文芸部。半日居座るつもりだ。傍らの鳥達はみな絶滅危惧種で、滅ぶ前にブンガクになりたいというので責任は重い。
青/英語/日曜日
入籍の際は夫婦別姓を採りたいと言うと案の定どちらの両親も苦笑いで認めてくれた。海外では珍しい事でもなし、第一いかにも仲良しではないか、「大栗」と「木下」は。表札の案はもう決めた。枝葉を大きく拡げた樹の下に両家の姓を入れる。いつか子供が生まれたら、本当にそんな場所に家族で行きたい。
すごろく/涙腺/流行
振興企画で、商店街が双六になった。チラシの商店街地図が盤面になっており、端っこを切って作ったサイコロの目の組合せで行く店が決まる。各店の独自キャンペーンもあり、参加者はみんな案外大真面目だ。私も金物屋のサイコロビンゴで数十年ぶりにアルマイトの弁当箱を手にし、つい目頭が熱くなった。
モデル/時計/絆創膏
試験の日。いじめられっ子が腕に貼っていた絆創膏の上の印刷が動いている気がして横目で見ると、デジタル時計である。訊けば極薄の使い捨てとか。時計なんて盗られるし邪魔だから、終わったらどっかに貼ってっちゃうんだと彼は言い、ついでのように付け足した。「でさ、これが爆弾だったらどうする?」
耳/爆竹/年齢
「墓は要らん、海に撒いてくれ」が口癖だった遊び人の祖父が他界した。火葬場から戻って車を降りた途端一天俄かに掻き曇り耳を弄する雷鳴、横殴りの風雨であっという間に空へ攫われる遺骨。呆然自失の僕ら孫一同に伯父「ありゃバアさんだ」。ジジイ今度ばかりはバックレ損ねたなと笑い泣きの大人一同。
景色/虹/年齢
地上げに逆らって居座り続けたじじいがついに越していった。体が弱り、息子夫婦の勧めでホームに入るんだとか。ノルマが満たせず絞られた衝動で地上げ屋を辞めた俺は、ごっそりパクったノベルティの花の種を元じじいの庭に思う様ばら撒いてやった。再開発の始まる春には現場は花まみれ、ざまあ見ろだ。
無差別/ネックレス/螺旋
老舗デパートの壁の大理石に覗くアンモナイトの一つが隠し金庫のダイヤルだという噂が流れ、月来店者数が二割増した。ネタ元は宝飾テナント新作のアンモナイトのロケットだとする推測もある。が、実は壁のアンモナイトの一つが脳波ラジオのダイヤルで、デパートが人々の深層心理に噂を流したのが真相。
ムカデ/年齢/包丁
一面の花畑の中、草むす砦を老人は護っていた。帝国の侵攻に備え十八から詰めている由。国境とは言え辺境、補給も来ず狩りと畑が専業ですと振舞ってくれた鍋は大層旨い。同僚を看取り花や虫を友としつつ地の果てを睨む彼には告げぬが吉だろう。帝国も祖国も彼の頭上を飛び交ったミサイルでとうに亡い。
ネックレス/フルボッコ/虹
苛められっ子の首飾りに苛めっ子達は早速狙いをつけ、大小とりどりのビーズが無残に砕けた。のち、宿題は無くすわ犬には噛まれるわ災難続きの彼女達に苛められっ子が言う。あのビーズは星だから、壊すと時差つきで報いが来るの。小さいのの分はこの程度だけど、一番大きいのの分はどんな具合かしらね?
保護色/無差別/爆竹
その世界を支配する神は、傲慢ゆえ神々の王から罰を受けた。お前がそれほどまでに他の世界を軽んずるなら、お前の世界の生き物たちに重荷を課してみよう。彼らの力のほどを見せるがよい。かくてこの世界の生き物は互いに喰らい合い騙し合い、行き過ぎた武器で滅びの淵にありながらしぶとく残っている。
一人/名前/耳
冬虫夏草を高く買うという人がおり、他人の山へこっそり入った。獣道を行くこと一時間、ふと(わたし)という声を聞いた。(わたし)(わたし)なぜかつられて下りた窪地に目当ての茸。採ろうと屈んで気付いた、そこらじゅうに生えている。さらにその奥、背丈ほどの巨大な冬虫夏草。そこから「わたし」
鉄棒/ミカン/緑
庭木に蜜柑を刺しておき、食べに来る野鳥を見ている。お客は概ね小鳥で、中でも色鮮やかなメジロは常連だ。信じて貰えないが一度だけ、目の周りが黒い奴が来た。小笠原のメグロとは明らかに違う、白部分が黒い「メジロ」だ。しかし、あっと身を乗り出した瞬間柵をかすめて飛び去り、それっきりである。
女/耳/景色
十年前に死んだ妹の手をひいて祭に行く。夜店で買ってやった飴細工の兎を耳からちょっとずつしゃぶっているのが何とも可愛い。姉ちゃんあげると言って差し出してきたそれを食べてやりたいが、飴屋の親父が睨んでいる。判っている、妹に悪気はないが兎飴は死者用で、生者が食べたら連れて行かれるのだ。
菜の花/日曜日/速度
すずめ都電線は名の割に郊外の山里の路線だ。廃線になるという噂が過去何度も流れており、油断していたら本当に潰れた。帰郷ついでに寄ってみると線路は草の下で、離れ小島のような無人駅のホームから見える一面が野花の海だ。屋根裏は小鳥たちの住処となり、どうもやっと名にふさわしくなったようだ。
残業/戦友/菜の花
思い立って洋書型の小物入れの中に春の庭先のジオラマを作り、部屋に転がっていたドリンクのおまけの猫フィギュアを死んだ飼猫の色に塗り直して配置した。二重底の下には奴の写真をぎっしり入れた。奴とは十五年一緒に暮らし、一昨年の今日が命日である。仏壇代わりに職場のデスクに潜ませるつもりだ。
留守/カーテン/銃弾
逃げたオウムが凄まじいマシンガントークを覚えて戻った。前は一言も発しなかった奴なので訳を訊くと、潰れたペットショップで会った保健所行きの鳥獣から本来の残り寿命分のお喋りを貰ったとか。ヒトの言葉は直後に自殺した店主のものらしい。布を被せても静まらず、相槌を打ち続けて七日七晩になる。
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051-075
せんべい/アイコン/ゆとり
部屋に見憶えのないリモコンが落ちていた。大きなキーは絵も文字もなく、毛が生えていたり凸凹だったりと表面加工がある。首を傾げつつふさふさのキーを押すとなぜか飼犬をなでたくなり、好きになで回して思い至った。隣のキーの凸凹はこいつの好物の煎餅そっくりだ。帰りにふと買ったのだが、もしや。
記憶/内股/流行
祖父が部屋にレコードを山ほど遺し、処分の前に知人のアンドロイドに応援を頼んだ。喫茶店で働く彼はレコードからの録音機能も持つ。右手の人差し指と中指で盤を挟んでくるりと一周回せば、指の内側のセンサーで両面の音を残らず読める。やっぱりアナログ音に限りますねというのが最先端の彼の口癖だ。
ぬくもり/乳/ゲーム
牛乳瓶の紙蓋を取るにはこつが要り、不器用な私はいつも薄く剥いでしまう。笑われるのが嫌さに手をつけず、居残り給食となった。冷たい椅子の上で諦めて爪をかけ、やはり剥がれた層の下から顔が現れた。訊けば毎日各クラスに一枚潜んでいるという。以来彼らと遭遇するのが楽しさに蓋を剥く癖がついた。
乳/速度/夏休み
帝国に呑まれた小国の姫は遥か西、騎馬民族の王に嫁がされた。ポニーにしか乗れぬ幼い妻を王は慈しみ、目をつむって馬乳酒を呑む彼女に上出来上出来と目を細めた。姫が貴重なビーズを糸のこま結びで代えて夫に贈った刺繍帯は夏の装いとして定着したのち帝都でも流行り、後に彼らが政権を獲る礎となる。
ライブ/留守/自己暗示
池袋駅の床のタイル模様が一枚だけ横にずれている。次の日確かめるともう一枚分隣にずれていた。山手線に辿り着いて東京駅に行ってみたいそうだ。が、ホームはタイルでなくアスファルト敷きだ。どうする気かと思ったが自分のセーターの編目模様が一マス無いのを思い出した。きっとどこへでも行けよう。
筋肉痛/茶碗/模様
卒業記念に友人達とタイムカプセルを埋めた。十年後掘り出す時に植樹する為、揃いのマグカップ入り盆栽も買った。カップの絵は自前で、植木から根を描き足し、隙間にカプセルの絵もある。準備係権限でカップに仕掛けをした。熱い液体を注ぐとカプセルの絵は髑髏に変わる。十年後にせいぜい慄くがいい。
合格/飛行機/列車
受験で上京する娘が接続の悪い新幹線で行くと言い出した。飛行機か高速バスにしろと言うと、飛行機は落ちるしバスは滑るから不吉だと言う。ずっこけそうになったが空気を読んで踏み留まり、了承した。だが当日大雪で新幹線は運休、切符を手に待てど暮らせど電光掲示板に番号は載らなかったという落ち。
タバコ/ライブ/録画
昔は煙草の煙で様々な形を作る芸があった。亡き祖父が名人で、文字の形、それも相手から読める向きに煙を吹けた。撮りたいとせがんだ私に、祖父は煙は消えるものだと笑って流したがふと怖い顔になり、くれぐれも身に着けるな、今の世にこれは要らんと言った。それが煙草の事か「芸」の事かは判らない。
列車/原稿/原稿
好きに塗っていいと言われ廃電車を丸々任されたが僕の想像力は枯れて久しい。ペンキも割れた僕そっくりの車体なぞ草に埋めてしまいたく、色々な緑を塗りたくったが割れは隠れない。悩んだ挙句縫い目を描き足し、ほつれに見立てた割れに沿線の景色を幾つも描いた。どうせ隠せないし好きに塗ったらいい。
英語/英語/自己暗示
溺死した寿限無(111字略)は米国転生するも名がJugemu(243字略)、絶望で川に転落。友人が彼の父に"Jugemu(同上)is drowning!" "What happened to my boy(全6字)?" "He(全2字)'s DROWNING!"かくて無事生還。
列車/タバコ/ライブ
とある独裁国家にも反体制派はいた。彼らはタバコ密造で得た資金で装備を整え独裁者暗殺を実行したが失敗。死刑判決を受けた首謀者は最期に自分達の闇タバコを吸い、刑場の露と消えた。翌日独裁者の専用列車が失火で全焼、体制は崩壊した。後、件のタバコの内側に専用列車が印刷されていたことが判明。
ボタン/ゲーム/マグカップ
母の他界以来、日々とりどりのボタンで満たしたコップを仏前に供えるのが日課だ。母は仕立屋で、端切れやボタンが私の玩具だった。家は貧しく持ち物は少なかったが、ボタンで一杯の箱は宝石箱だった。母は愛人を連れてきた日、彼のおもちゃを断った私をつねった。捨てられて首を括ったのは割とすぐだ。
目玉焼き/かさぶた/桜並木
裏山の公園隅から延びる秘密の径は中腹の一本桜へ行き着く。重く揺れる花は音もなく、見下ろす街はおもちゃのようだ。あのどこかが大通りの桜並木で、仲違いした友人達が人波に揉まれている。一人のエアポケットで食べる弁当がさほど美味しくないのは手料理を笑われたせいで、静けさはむしろ好ましい。
露天/無差別/ゲーム
冬の公園で日なたの地面にじっと腹をつけて体を温めているハトどもをそっと両手で持ち上げて横に移す遊びを延々繰り返していたいと友人が言う。その妄想だけで半日潰せるらしいので頭の病気を疑ったが、本人実に幸せそう。仕方なしにハトが暴れるだろうがと言ったら、そういう問題ではないと叱られた。
茶碗/グラス/ゆとり
携帯が妙なメールを拾うようになった。本文以外宛先も送信元も空白なのだ。関連性は不明だが「みづ せろり わああ」というのが来た日はセロリに蝸牛が潜んでおり、「っぴぴり のと ばらばら のです」というのが来た日は食器を二つも割った。直近のが「 がらけ 」で、機種変更を躊躇している。
予測/残業/飛行機
太陽の暈をくぐった紙飛行機は本物の飛行機になるんだと病床の息子は言った。それに乗って行けば神様に会えるんだと。そんな事を思い出したのは深夜、会社の窓から見上げた月に暈がかかっていたからだ。手近な反古紙を飛行機に折り、満月を思い切り射た。あれに乗って行けば、お前の星に辿り着けるか?
支え/月/お茶
月が沈むのは増えすぎた兎を地に降ろす為だ。兎=鳥類説ができるほど有名な話だったが今は昔、地上に慣れぬ兎達に月見団子を振舞う習慣も廃れた。お礼に兎がくれる餅は美味だったと祖母は言う。今や空家の月に芒でハタキ掛けしているひとに嘘とも言えず、横目で見ると祖母はすまして番茶を啜っている。
予測/フルボッコ/フルボッコ
ばたんと眼前の地を打ったのは銀杏の葉だ。蟻が見上げると上空の枝は黄一色。この時期大量に落ちてくる葉は輪郭が鳥そっくりで蟻はちょっと苦手だ。その隣の紅葉も人間の子供の掌に似ている。閃いてドングリ帽子を拝借し、空襲を避けながら歩いたが、その様が子供を魅きつけるのに蟻はまだ気づかない。
ぬくもり/マナーモード/コーヒー
私の小説の筆名は連名、原稿は手書きのままだ。文の周囲に絵とも記号とも見える装飾が入り、時々文と絡まっている。合作相手は秘密だが実はこの喫茶店に棲む小人達だ。居眠り中にコーヒーで落書きされたのを横目で黙認して以来、人も来ぬ隅の席でインクとコーヒー染みの紙上セッションを楽しんでいる。
虹/勇気/ノイズ
バー"One-Shot Bar"名物は壁の無数のQRコードだ。その一つが当りで、モバイルのカメラで一日一回挑戦できるが正解者はまだない。思い立って壁の「ある物」を撮るとURLが表示され、飛ぶと七色の字で「正解」。碁盤の目の街路を上から写した白黒の航空写真にコードが隠れていたのだ。
留守/飛行機/一人
世を儚むまでに落ち込み、泣くと涙が細かな足跡の形で頬を伝うようになった。気味悪いが心に巣食う何かを追い出すと思えば楽だ。だが床に落ちた足跡たちはいつも乾く寸前私へ踵を返す。ある日ついに手首を切ると、無数の赤い足跡が八方へ散ったまま二度と戻らず、浮遊する意識の中でその正体を悟った。
チョコケーキ/乳/紅葉
窓際5番卓。十月七日、老紳士、コーヒー。十一月十九日、老紳士、女の子(制服)、コーヒー、ケーキ。十二月十日、老紳士(車椅子)、女の子、コーヒー、ケーキ。二月二十八日、老婦人(黒服)、女性(黒服)、女の子(黒服)、紅茶三つ。三月十五日、女の子、コーヒー、ケーキ。※外の木にやっと蕾。
かさぶた/露天/ミカン
採れた蜜柑を無人販売所に山と積んだところ夕方には完売していた。それはいいが代金入れも空っぽで、その日を境に置いた野菜も果物も全て消える。いい加減見張りにも疲れた頃になって、裏山で古い祠が撤去された話に思い至り、試みに「直売所」の字を消して作物を入れ続けたところ翌年から豊作続きだ。
緑/タバコ/包丁
ナナフシを捕えたら脚が皆もげた。奴はナナフシギと名乗り、もげた脚の数だけ私に怪談を語ったが、六つとも私の知っている話と違う。怯える私に奴は、自分の脚が生え替るまでお前が生きていれば呪いは解けると言った。以来、時間差の毒に震えながら奴を養ってきたが、生える気配もないまま百年になる。
ネックレス/時計/ランプ
雑貨屋でふと買ったペンダント三本のトップは親指大のランプ、鳥籠、手紙入り瓶だ。鳩が灯りを頼りに手紙を運ぶ物語を考えたが、底面の時計が全て違う時刻で止まっており考え直した。孤島に漂着した男の流した手紙は沈み、放った鳥は物言えぬまま人に飼われ、死ぬまで灯した火にも気付く者はなかった。
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076-100
景色/無差別/マナーモード
目を瞑ると違う風景が見える。夢ではない。目を閉じた瞬間視覚だけが切り替わるのだ。そこは風の通る草原で、音もなく澄んだ空を雲が駆け足で流れる。草の海は遥か山脈まで青く、白樺の木がすっと立っている。祖父がダム建設で沈める前にそこを目に焼き付けたせいで、私にまでそれが伝わって離れない。
茶碗/味覚/液晶
食べ物の画像を触るとその味が判るという友人がいる。新作菓子やラーメン屋の毒見に重宝がられているが、彼曰く意外に不自由で、報道写真で難民の子が持っていた皿の中身はトラウマ級の切ない味だとか。逆に本物がどうにも気になるのは海外の少数民族の料理の絵で、材料の動植物はみな絶滅したらしい。
カマキリ/タバコ/耳
長きに渡ったキノコ族・タケノコ族の戦争は最終局面を迎えていた。タケノコ族の細面のエリート士官が、当方はれっきとした竹の子であり、木の子など木の寄生物に過ぎんと罵ったのだ。タバコをふかしていたキノコ族の老兵が、茸(たけ)の子の分際で何を言うかと一笑に付し、キノコ族の勝利が確定した。
カーテン/肉/濃厚
食品会社のポスター撮影で、スクリーンをバックに豪華な肉料理の皿を捧げ持ってカメラに笑顔を作る。皿の中身は同胞……人間の肉だが、私は写真写りのいいスタイルのお陰で重宝がられ、食用を免れているらしい。「彼ら」は仕事さえちゃんとやっていれば大事にしてくれるので、怖いと思ったことはない。
露天/濃厚/無作為
某銭湯で第4水曜に開かれる貸切り会合は子供用お風呂おもちゃで目一杯遊ぶ大人限定同好会で、毎回水鉄砲撃ち合いや水習字、アヒルレースが真剣に催されている。スペース・安全上の理由から入会は紹介制で銭湯側も公表しないため、「大人」「おもちゃ」のフレーズで要らぬ誤解を招いているのは別の話。
ゆとり/アイコン/手足
肝試し以来右手の親指にツイッター状のTLが浮き出す。指を水平にすると丁度爪にアイコン、指本体にツイート本文が出る。だが内容たるや化けて出る相手への恨みやら百鬼夜行待合せ場所やら最強祟り神TL等々、いいニオイがしない。私から呟く機能はないようだから息を潜めているが万一連中に嗅ぎつk
責任/プール/涙腺
波立つプールに生れた人影、それは両手にアヒルとサメを難なく抑え込み「落し物は金の鵞鳥? 銀の魚?」その質問こそ天佑、児童の答えは「金の鵞鳥!」これで解決と意気込む彼らに人影は「あ、一色忘れてた」と呟き銅像と化し、二匹も金銀に変じた。三体の像は正門に飾られ、爾来校訓は動物愛護だ。
布地/風邪/濃厚
幼い頃好きだった薄掛けの布団は祖母の刺繍入りで、ホットケーキや牛乳瓶の絵柄がついていた。熱を出した夜には蜂蜜を飲ませてもらい、ホットケーキの上で寝る夢を見た。今は安アパートで苦い薬を噛み、ほの白い布団にくるまっているせいか、脳裏を数知れぬ羊がよぎって止まず、夢はいっかな訪れない。
菜の花/ノイズ/難易度
友人宅のマトリョシカが夜中に動くらしく張込み中。件の人形がごとりと割れ大小揃った十三体、花柄の体から弦音が出た。一体一音計一オクターヴの筈が一体だけ鳴らず、見ると会津起上り小法師にすり替っている。膝を打った友人が物置から残り一体発掘、解決した代りバラライカの民謡が鳴りっ放しとか。
サイト/連絡/自己暗示
敵国同士の蛮・触は同じ伝説を持つ。世界は蝸牛の角の上にあり、滅びの日は地震の後に大隕石が降ると。ある時駆落ちした蛮の若者と触の娘が新たな世界を見出した。程なく大地震に襲われた両国は助け合い、二人の導きで世界を移った。直後、両目を寄生虫に冒された旧世界を襲う巨大な鳥影。
好き/緑/金星
先祖が盗んだ翠玉の祟りで代々碌な死に方をせず、戻しに行くが案の定事故に野盗の災難続き。半死の体で遺跡に入った眼前に立つ影は何とご先祖、玉への未練で子孫達へ祟ったのだ。全力疾走で奥の女神像に玉を戻した瞬間大地震。落盤が女神像で止まり命拾いして以来私は息災、先祖は多分永劫そこにいる。
黄/銃弾/タバコ
クラスメートの一文字(いちもんじ)くんに「3文字じゃん」と言ったところ「お前こそ1字か3字かはっきりしろ」と即答され二の句が継げない森くん。出口くんに勝てずグレてゆく山口くん。そしてドロップアウト寸前の雨野くんと飴野くん。今年度も四ヶ月を残し、クラスの平和に危険信号が点り始めた。
録画/マナーモード/桜並木
神々の住まう大樹ユグドラシルを起点として同心円状あるいは放射状に人間界が拡がっているのは周知の通りだが、さて世界の外縁はといえば存外記録にない。この世の果ての滝すれすれに防砂林よろしく植えられた樹々、その各々がツリーハウスを一軒抱え、世間からこぼれた者をひっそり匿っているのだが。
意識/化粧品/水薬
昔、幼い姉妹がいた。母親は自分の子である妹を可愛がり、継子の姉には辛く当たった。ある日、継母は姉娘に自分の化粧水を見せて言った。これは飲めるの、心が綺麗になるのよ。それを見破った姉娘は同じ事を妹に言った。母と義姉の不和に心を痛めていた妹は、自分は我慢してそれを二人の食事に混ぜた。
国/ランプ/男
私に振られ自殺した男が人魂つきで化けて出た。百夜続けて姿を現せば「連れて行ける」そうで困り果てた九十九夜目、死んだじいちゃんが夢に出て「百」の上棒を二本に折って「ひゃく」の「ひ」の字にくっつけた。閃いて飛行機に飛び乗り着いた先はロバニエミ、流石の霊も白夜の中では出られず一件落着。
タバコ/英語/狼少年
プライムハイツという学生アパートに住んでいる。入口の管理室窓口にはヤニで汚れた某海外ロボット映画主人公のプラモが置かれ、マスコットとして黙認されていた。去年の四月一日、それが大仏のプラモに忽然とすり替わっており、管理人の仕業とすぐ知れたが、由来に気付くのに住人総出で三日かかった。
銃弾/青/涙腺
先祖が盗んだ蒼玉は泣く子も黙る祟り石で、一族全滅前に戻しに行くも道中災難続き。宿で座った椅子まで訳ありで、玉と椅子が私の呪殺権を巡り激突、潰れた宿の主に椅子を持たされ災厄まみれの同行三人で遺跡到達。石像へ戻り力を増す玉、それを像ごと倒して椅子に座らせ一目散に逃げて以来私は息災だ。
流行/ゲーム/CD
カード型文具に燃えた世代だ。休み時間に友人達とマイデッキを一枚ずつ出して機能や珍しさを競い、僕の工具カードは常勝の切札だった。最近思い立ってそれらを撮り、タッチパッドで操作できるアプリを作った。カード文具の情報をウェブで募ったところ好反応で、全員分加工してネット対戦会を構想中だ
ボタン/アブノーマル/新月
ベランダでクッションを叩いていて、カバーのボタンを打ち欠いてしまった。破片はすぐ真下の庇の上、億劫で放置したものの、欠けた部分がズボンに引っかかるのが気になり、二週間後に拾って貼り合わせた。二つの破片はぴったり付いたが心持ち色が違う。何よりその日以来、その形に月が欠けて戻らない。
チェス/白昼夢/一人
拙宅の白い和金は鼻の黒いちょび髭模様からチョビ。近所のノラ八割れ猫も通称チョビだ。夜半、池の縁でチョビ猫が、水面に鼻を出す金魚と無言で対峙していた。次の瞬間金魚が跳ねて猫の額に衝突、それきり猫は駆け去った。翌日庭先で餌をねだる猫は鼻の黒い白猫、慌てて見た金魚は黒ぶちに八割れ模様。
屋台/男/景色
祭に来る老飴細工師の腕は毎年評判だが、仕事始めの光景を知る人は稀だ。各店準備中の時分、ソレを知る子供達を前に彼は十二支の由来を語る。牛の背の鼠で始まる口上に沿って淀みない指が生む十二匹の動物達、最後に猫を添えて開店だ。十三匹は客足と共に入れ替わり、子供達の眼前で物語が次々花開く。
黄/舞台/内股
駅構内の通行人を数えるバイトに就き、雑踏をカウントしていると不意に傍で黄色い声。振り向いた視界を巨大な布が塞いだ。獅子舞だ、それも約二十人入りのむかで獅子。かぱっと開いた大口の中身は友人のどや顔。どこで調達した、そして邪魔だ。足早に行き交う人々を陰に隠し、眼前の獅子は悠々と舞う。
カーテン/包丁/ノイズ
森に潜み強大な魔力で王を脅かす魔女が遂に賞金首となった。皆が二の足を踏む中若い男が名乗りを上げ、魔女に唯一効く武器と称して折れた剣を提げていった。誰も期待しなかったが、その日以来災いはぴたりと止んだ。やがて戻った彼曰く、自分は魔女の戦死した息子の僚友で、形見の剣を返しただけだと。
責任/まとめ/約束
生まれてきたことを後悔させてやると百歳の祖父が宣言した。世界最長の音楽の演奏終了が西暦2999年だとか、次回の火星の地球最大接近は西暦2287年だとか、そんな微妙に悔しくなるような事ばかり言ってくる。「サグラダ・ファミリア2026年完成見込み」のニュースがよほど悔しかったらしい。
無作為/女/爆竹
栄転したお天気お姉さんとそれを邪魔する雨雲の闘いは熾烈を極めた。前夜の予報をことごとく外してくる雨雲の裏の裏の裏の裏をかこうとするお姉さんの予報がノストラダムスの様相を呈してきた頃、番組は満を持して秘密兵器を投入。晴天にぼん、ぼん、ぼんと響き渡るその音こそ人類の英知、人工降雨だ。
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