140字三題噺 -2nd season
100本完遂済。配布元:三題ランダムキーワード
一応の目次
001-025
歩く/砂漠/拒絶(シェリダー)
四歳の息子が食卓に白い砂を広げ、叱っても聞かない。と砂上を動く姿、見れば小さな駱駝が小さな女を載せてゆく。そうだ、昔破いた絵本の場面。女は顔を上げ、その子に免じて許しますと言うや掻き消えた。よくこんな白いお砂見つけたね。感慨深く砂を掬って息子に言えば、彼が得意げに指差す猫トイレ。
悪態をつく/ベランダ/恋人たち(ラヴァーズ)
姫が隣国の森の塔に幽閉されて二年。国は呑まれ両親は刑場に消えた。許婚の戦死はその前だ。鉄格子入りの小窓から異郷の山を眺め暮らしたある日、王の夜伽の沙汰が下りた。牢番は鉄格子が緩いと呟き、姫は彼の慈悲を察した。姫が身を投げた窓の下に翌春、二輪の花がくちづけるように寄り添って咲いた。
挑む/フローライト/貪欲(ケムダー)
花言葉・石言葉は人間が決めたに過ぎず、花同士石同士は独自の認識で互いを観ている。彼らにすれば薔薇を贈るだのダイヤを欲しがるだのも致命的なミスマッチかも。そう言っていた変人の叔父が頓死し、遺言通り土葬になった。運よく化石になり彼らの会話に入れたら、彼らは叔父をどんな名で呼ぶだろう。
踊る/蓄音機/女帝(エンプレス)
その酒場の歌姫は足が不自由で、椅子にかけて舞台をこなした。だが古今東西の歌という歌に通じ、どんな要望にも美声で応えるので店は繁盛した。閉店の日、主人は今までの礼に望みを一つ叶えると言った。彼女が脚と答えるとその魚の尾は人間の脚となった。踊り子が夢だったの。彼女の足どりは嬉しげだ。
休む/秘密/剛毅(ストレングス)
美女デリラの色香に迷った勇士サムソンは、髪を切られると力を失う弱点を寝物語に漏らした。やがて寝こけたサムソンへ刃物片手に迫るデリラ。だが名だたる勇士、跳ね起きて左手で刃物を奪い、絞め殺さんと右手を女に伸ばす。絶体絶命の女がとっさの一言「あんたの頭、十円ハゲ!」その時歴史が動いた。
びびる/ビー玉/塔(タワー)
頭蓋に穿孔して第六感を高めるオカルトが流行ったが、一笑に付した。私は生れつき頭蓋の継目が一片足りずBB弾大の穴がある。特段何もないからガセだ。と、友人達が妙な顔をする。お前は昔から宙に向かって会話するというのだ。みんな冗談はよせと笑うと、この場には俺とお前の二人きりだと返された。
悩む/煙草/物質主義(キムラヌート)
昨日着ていたTシャツの金魚がみな消えた。折よく雨なので探しに行くことにし、ベッドで目を閉じて魚になった。ひと気のない道を泳いで公園へ入ると、金魚どもがあずまやで捨犬の周りを泳いでいた。昨日から捨てられていたようで、心配で見に来たらしい。犬と金魚を先導して霧雨の中を家まで行進する。
劣等感/ソーダ水/魔術師(マジシャン)
色々な炭酸水をグラスに入れて魔術ごっこ、は定番の遊びだ。クラスに魔法使いを名乗るいじめられっ子がいて、僕らはサイダーを見せて魔法で何かやれと迫った。案の定泣きだした彼を放っておき、僕が得意げにグラスを覗くと――中を泳ぐ、極小の鯨の群れ。慌てて口を付けた中味は苦い塩水に変じていた。
噛む/夢/理解(ビナー)
友人が青空を指で四角に切り落としていた。舐めると甘いので、分けてもらって二人でひとしきりしゃりしゃりやる。が、もとが空っぽなものなので腹には一切溜まらず、要は気休めだ。本当は夜間、子供部屋の窓に嵌め込む物らしく、子供が夜を怖がらなくなる、寝ている間の夢が映る等の効果があるらしい。
偲ぶ/箱/戦車(チャリオット)
太陽系第三惑星・地球が宇宙遺産に登録された。固有の自然体系とそこで発展した文明が顕著な普遍的価値を認められた為だ。文明の主・人類は戦争でとうに滅び、その遺跡群は危機遺産として修復と保全が叫ばれている。だが範囲が星全域に及ぶ上、人類の建築手段は自然破壊を伴う為、議論は難航している。
嗅ぐ/ナイフ/月(ムーン) ※一回余分に引いたのでオマケ
領主は森の小村を反乱のかどで滅ぼしたが、狙いは特産の香り高い薔薇の独占だった。小銭に釣られ秘伝の栽培法を領主に話した若者は、自らを生贄に最終最後の呪いをかけた。夜、薔薇風呂を試していた領主の奥方の浴室から悲鳴。浴槽のみならず倉庫も庭も、薔薇の花弁という花弁が薄い刃物と変じていた。
諦める/ガーネット/正義(ジャスティス)
世界を狙う結社のボスと、彼を倒したヒーローがグルだという噂は、執拗に流れ続けた。ヒーローを信ずる少年は友人と諍いになって飛び出し、そこへ車が突っ込んだ。間一髪彼を救ったのは憧れのヒーロー、だが服の下にボスの首飾りが見えた。ヒーローが力と引替えに次代のボスになる掟を、少年は知った。
偲ぶ/リボン/欲望(ラスト)
フードプロセッサを頼んだのにワードプロセッサが届いた。今日日使い道に困っていると、老使用人がおずおず貸し出しを希望した。彼は字を書けないが読め、キーボードは便利らしい。棚にあったインクリボンごとあげると、自伝を書いては見せてくれる。昔の暮しは興味深いが、私を神童呼ばわりは勘弁だ。
放す/鋏/知恵(コクマー)
不器量で不器用な妹を見下すのが私の日課だった。ある時から妹のシャツに小さな刺繍が付き始め、問い詰めたら練習していると言われた。あんたの指で? 鼻で笑ったが、刺繍は日ごと多彩に繊細にシャツを満たしてゆく。引き換えに私の眉間には皺が寄り、目は吊り上がり、口を出る罵り言葉は痩せてゆく。
後悔/牙/運命の輪(ホイールオブフォーチュン)
結果的に姫を死なせた王は併合した国民の恨みを買い、政変で例の塔に入れられた。その後新しい王も倒され、議会が興った後も数年単位で元首が入れ変わった。数十年後に国が安定し、用済みで取り壊されるまでに塔へ消えた者は数知れない。あの花は元牢番の庭に移され、老夫婦の目を毎年楽しませている。
困惑/切符/剛毅(ストレングス)
食虫花が頂いた蟻は冬虫夏草持ちだったようで、虫の残骸を餌にしぶとく伸びた茸が花の口からひょいと出た。あんた出なさいよ邪魔ね。仕方ないでしょ蟻の行き先なんて選べないわよ。不毛な舌戦の末、彼らは共存に落ち着いた。食物の好みが合うので仲はいいが、お喋りが物騒過ぎて時々虫が寄り付かない。
踊る/虹/星(スター)
大発生した毛虫に両腕一面ボツボツにされて寝込み、夢を見た。天球に広がる星はつまり発疹で、それを生み出す星雲こそは宙に渦巻く巨大な毛虫だ。夢は進み、私の腕の発疹一つ一つを星として色とりどりの命が日を暮らす。なら、宇宙の名で呼ばれる何者かも寝床で痒みを堪えているだろうか。
冷静/花火/吊るされた男(ハングドマン)
やむなく人を殺した僕は罰として中空に上げられ、風と霧を任された。眼下の大地では人間が働き、遥か頭上の羊雲や星は善人の管轄だ。自分の半端な位置が初め不安だったが、何せ報いだし、指示通り刻々流れる風や霧には時を忘れる。僕の手にかけた人でなしが地獄の刑を終えるまでというが、顔も忘れた。
諦める/言葉/節制(テンパランス)
春雨が止んだら園芸店で露地植えのチューリップの花を覗くとよい。運がよければ中に溜まった水を無言で泳ぐ色様々な金魚が見られるだろう。この時分蕾をつける金魚草のうち花に成りたがらぬいくばくかを、先に咲くチューリップ達が一時預かり、花である事を受け入れるまで魚で居させてやるのだと聞く。
聴く/魚/星(スター)
火星の人面岩は独りの暇潰しに地球を眺める。目がいいので人間の営みがよく見える。気に入りは山上の民で、堅牢に組んだ石の街、とりどりの衣装が闊歩する市場を飽かず見た。彼らも自分を知っており、時々地上に巨大な漫画を描いてくれた。無音に阻まれ礼を言えぬうち民は滅ぼされ、漫画の続きはない。
優越感/葡萄/塔(タワー)
政争に敗れ幽閉された王子がいた。五層からなる地下牢の最下層が終の住家で、上の様子など知る術もない。歳月を数えるのも忘れた頃、壁の隙間から細い木の根が顔を出し、彼はふと考えた。これは根でなく蔦、ここは世界の頂点だ。愉快になった彼は再度の政変でも外へ出ず、塔の哲人として生涯を送った。
見る/角砂糖/勝利(ネツァク)
庭の蟻退治にと角砂糖に毒を染ませて設置した。蟻を引き寄せる成分入りで、巣を根絶やしにできる。翌日覗くと果たして角砂糖は跡形もなく、黒い小さな姿も見当らない。安心して庭仕事を終えたその夜、いつもより働いたせいか強い眠気を覚えた。吸い込まれるように倒れ込んだ白いベッドマットは甘い香。
喜ぶ/ソーダ水/隠者(ハーミット)
山奥の叔父を訪ねる。世を捨てた癖にラムネは気に入りで、土産の瓶を大事そうに小川へ浸けていた。薄緑に霞む山々は所々桃色が咲き、二人掛ける縁側の足元も踊子草の林だ。結婚はいいがあの男はなあ。問う前から叔父が呟く。周囲が浮かれる中そう云って貰ったのは初めてで、無言の喉にラムネが弾けた。
幸福/耳飾り/物質主義(キムラヌート)
ウミウシの間には人間になった娘の話が伝わっている。村で一番美しい模様と触角を持っていたにも関わらず、妹の模様を妬んでその皮を剥いだため、罰として人間にさせられたのだ。以来人間は地味な皮を持ち、美しい服や装身具は金で購わねばならず、母なる海から拒まれて陸の上で真水を求めさ迷うのだ。
歌う/ランプ/無神論(バチカル)
デジタルデータの記憶媒体として遺伝子操作されDNAに様々な情報を記録させられていた菌類のうち一種が、操作時の突然変異で猛毒を得て大増殖を始めた。かくて自らの「記憶」になす術なく滅ぼされる人類、読み解く者とてなき殺人菌の所持データこそは人類の灯たる名曲「ぼくらはみんな生きている」。
痛む/耳飾り/残酷(アクゼリュス)
芝生で昼寝中に枕で蟻の巣を塞いだらしく、幾匹か枕に棲み付いた。気付かず持ち帰ったその夜の夢で、蟻が妖怪枕返しを追い払った。安堵も束の間、殖える蟻どもの話が耳元でうるさい。自分で枕を返すと蟻は慌てて逃げ散り、早速現れた枕返しが枕を返していった結果、枕は正しい位置に戻り、以来安眠だ。
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026-050
抱きしめる/切符/世界(ワールド)
破れた枕をぼろシャツで繕ったところ、実は恋人だったらしい彼らが夢の中で逢引きを重ね始めた。試しに他の布を当てると三角関係になり、家中の布を当てた結果剣と魔法と野望と愛の大活劇が毎夜展開され目が離せない。遅刻続きで首になった俺は自分の髪を布状に編んで当て、永遠に彼らの仲間入りした。
投げる/秘密/節制(テンパランス)
古いネガをスキャンしていると、フィルム中に小さな鬼の姿を見つけることがある。誤って感光した箇所の隅、フィルム送りの空撮りでほとんど写らない最初の三枚分など、今まで現像されなかった部分に限って写り込んでいる。運悪く写らない時に当たってしまうのか、彼らが狙ってそうなるのかは諸説ある。
泣く/ミルクココア/根源(アツィルト)
夢に十八歳程の少女が出、貴方の娘になろうと思うのと言った。古典児童文学の主人公の一人で、ふいと仲間を外された展開が幼心にも理不尽だった。一念発起して撮った「彼女のその後」の自主制作映画がウェブで拡がる頃、彼女が再び夢に出た。庭の四阿でお茶を注いでくれながら彼女は百年分泣いている。
嗅ぐ/ベール/太陽(サン)
星が落ちたというので愛犬と出かけた。程なく微発光する欠片を犬が嗅ぎつけ、ぱくりと呑む。折角なので周辺を探し回り、魚の化石や原石等も呑ませる。当節新しい石は機械で錬成するのが一般的で、体内熟成は違法だが、機械を買えずこっそり続ける貧困家庭は多く、思わぬ物が出来るので実は需要も高い。
傲慢/羽根/貪欲(ケムダー)
雨の日、信号待ちの傘に烏が飛び込んできた。肩に止まり、近所の神社へ送れといけ図々しい。仕方なく寄ると、入れ替りに重たいオウムを託された。動物園への戻り道が分からないという。肩凝りに耐えて連れて行くと、傘が巨大な鳥になった。以来目的地までひとっ飛びだが、何分濡れるし時々フンをする。
傲慢/アクアマリン/知識(ダアト)
人間が近縁種たる犬を愛でるのと同様、ゾウリムシはミドリムシを飼う。澄んだ水へ光合成に連れて行き、長い鞭毛を手入れしてやりと睦まじい様は単細胞と侮れない。その最愛の伴侶の天敵が人類だ。ミドリムシを殖やしては食い倒すその暴挙に水源という水源を握る彼らがいつまで耐えるかは時間の問題だ。
緊張/呪文/悪魔(デビル)
使用人として入った屋敷に三猿の刑という罰があり、最近一人が受けたと聞いて腰が引けたが、初日は大事なかった。異変は二日目、暗い顔で働く一人の青年に全員が目もくれない。これが三猿の刑、今の彼は幽霊同然なのだ。ただ救いらしき物はあり、青年の食事は座敷童に遣る口実で庭師が毎度置いている。
苛立つ/文字/皇帝(エンペラー)
兄が生霊となり僕の元に現れた。あんな事をして済まない済まないとしきりに詫びられたが、むきになって言い返した僕にも責任はある。閻魔庁も、刺された僕が化けて出るなら分かるが殺した側が生霊になってここまで来た例は載っていないと困惑気味だ。とまれ、呑んだくれだが根はいい兄なのだと訴える。
挑む/髪飾り/無感動(アディシェス)
飛ばしてしまった山桜の笠を雨蛙が追うと、ひき蛙がそれをちょんと頭に乗せていた。雨がぼんぼん降って来るので意を決して頼むと、そうかいと言って返してくれた。あまり残念そうなので雨蛙は山つつじの花を乗せてやった。ひき蛙は池まで乗せてくれ、ぴょんぴょん跳ねる花を子供が口を開けて見ている。
諦める/鈴/残酷(アクゼリュス)
彼の着けるイヤーカフは幽霊を関知する。近辺に幽霊がいればそれが熱を持ってジイイ…と微かに鳴り、成仏すれば止む。久しぶりに会った友人にそれを話し、異常無いのを見るとお前は生きてるなと軽口を叩くと、いや死んだのはお前だと返された。瞬間イヤーカフが氷と冷え切り、耳中に無音が膨れ上った。
憧憬/真珠/表現(アッシャー)
ワラ人形と誤読された童(わらべ)人形は復讐に燃え、本物の藁人形を志した。他の藁人形に胴体の交換を頼んだが高級品種の本藁だと断られ、替りに稲穂の飾りを貰った。農家で藁の体を頼んだが牛にやると断られ、替りに貝の櫛を貰った。かくて次々女子力を上げた人形は、ワラシベ人形として名を馳せた。
嗅ぐ/マシュマロ/無神論(バチカル)
留学生が羊羹を御馳走してくれるというのでダイエットを忘れて訪ねると、文字通り羊の羹(スープ)が出てきた。香辛料の効いたスープを啜りながらてっきり甘い方かと思ったと言うと、それは君が持って来るのかと思ったと笑われた。卓上の花瓶には私の土産のウスベニタチアオイが澄まし顔で咲いている。
泣く/レース/創造(ブリアー)
レース編みの得意な娘がいた。日々の飾り、テーブル掛け、花嫁衣装まで注文が引きもきらず、娘も喜んで模様を創り続けた。それを妬んだ女貴族が娘の指を駄目にし、娘は海に身投げした。憐れんだ神が娘を波にし、彼女は喜び勇んで打ち寄せては新しい模様を見せる。最近は女神達からの注文も多いようだ。
嗅ぐ/氷/残酷(アクゼリュス)
恋人が蛇女で、僕の好きなミント系タブレットが大の苦手だ。彼女のは生肉風味で、ほぼ丸薬と呼んで差し支えない。「タブレットはキスの後」が不文律となった。掟はまだあり、彼女は奥歯に毒を持つので要注意だ。だが前歯でないだけましで、吸血鬼が恋人の友人は完全夜型になった。理由は聞いていない。
食べる/天体/戦車(チャリオット)
彼は星を一つ滅ぼすたび、そこの土を喰う。同じ味は二つとなく、どれも不思議と旨いそうだ。その瞬間だけは、自分のした事もされた事も皆忘れてしまうという。中でも一番は最初に喰った自分の星だと彼は笑った。彼が滅ぼしたのか滅ぼされたのか訊けずに黙ると、二番はお前の星だぜと慌てて添えられた。
食べる/精霊/戦車(チャリオット)
二つの超大国が揃って軍事衛星を打ち上げた。技術スパイ合戦の結果、両機はそっくり同じ形状・機能だ。上空で互いを認識した時からどちらも他人の気がせず、以来電波で毎日こっそり近況をやり取りし、軌道がすれ違う時には目礼を交わす。次の十五夜は酒代わりに燃料を交換しながら月を観測する約束だ。
哀しむ/裸足/無感動(アディシェス)
肩が当たった貧弱な男に、骨折した一万払えと凄んだら出した。ほくほくして受け取ると相手は妙に明るい顔でもう二万あると言った。聞き返す前に股間へ爪先、鳩尾へ拳が入り、崩れる俺に奴は貯金が百万あると笑う。這って逃げる俺の頭上へ、あっもう一万あったと晴れやかな声。首にスタンガンが触れた。
傲慢/手紙/表現(アッシャー)
コンセントから電気マンが出、台風だから遊びに行くぜと言って引込んだ瞬間停電になった。スマホも電池切れ、彼とのメールが中断だ。仕方なく蝋燭の下でメールの続きを手紙で書き、彼の返信は妄想で補う。気付くと電気マンが覗いていたのでスマホで殴ると、衝撃で大長編の手紙が撮影・一斉送信された。
見る/クローゼット/審判(ジャッジメント)
経営改革で極楽と地獄が合併、成功している。生前強欲だった金持が灼熱の厨房でボロ前掛一丁で作らされる料理を善男善女が味わい、その便所の先の糞尿地獄は功徳を積んだ蝿の極楽を兼ねる。成功も道理、これこそ現世そのもので、それに気付いて以来閻魔庁はこれら死者の行いをも来世の目安としている。
泣く/蓮/王国(マルクト)
王冠は蓮の花を象っており、王子は幼い頃、父王の頭上の花びらを数えたものだ。大飢饉の年、大臣達の節約・備蓄放出の進言を王族は受け入れず、人事入替えを計った。王子は自ら籍を抜けて大臣側に付き、父を冠ごと幽閉した。一介の政治家となった彼は白詰草の冠を贈られ、これは数え切れないと笑った。
休む/林檎/戦車(チャリオット)
新しいバイト君が鳥人間なので、本社・支社間の荷物のやり取りが非常に速い。何せ本社と各支社は文字通り天と地の距離、なかなか手が回らないのだ。このバイト君、うっかり翼を溶かして死んだ前科があるが仕事はまめなので、支社の供え物の一部を食べる許可を出した。特に金の林檎は最優先隠滅対象だ。
愛しむ/海/欲望(ラスト)
提灯鮟鱇から灯りの注文を受け、青い紫陽花片手に海へ潜る。青より私が呼吸用にくわえた白い花を望まれ、代りに提灯を貰って戻る道で人魚と会った。白提灯なら付き合うと戯れたらしい彼女がもげた提灯に涙した所へ件の鮟鱇。元通りを望む二人に提灯を返し青い花も贈って以来、庭の紫陽花は銀鱗と光る。
怨む/飴/愚鈍(エーイーリー)
山奥の叔父が暫く下りて来ない。私も縁談中で訪ねてゆけず、日々が無為に過ぎる。叔父が頭にあるせいか、少壮の士官という相手も冷酷としか映らない。あの狐娘は叔父と情を交わしたのだろうか。思考はどうどう巡りにどん底へ沈み、ある晩猫いらず入りの牡丹餅を作った。小豆をよく煮たから狐も喜ぼう。
焦燥/森/知識(ダアト)
森の木の葉からふさわしい一枚を見つける命を受けた。無数の葉にはみな違う文言が刻まれ、気が遠くなるほどの枚数を見たがそれらしき一枚は見つからない。先行きの果てしなさに忍耐が切れ、呪いの言葉を思うさま吐くとそれが凝って葉になった。違うと言いたかったが分かっていた。これが私の葉なのだ。
泣く/流れ星/永劫(イオン)
弟が夢に迷い込んだ。寝言に私が返事したせいだ。彼は現実に絶望していたので、良かれと思ったのだ。が、夢の世界は更に苛酷と見え、うなされ続けている。見かねて隣に眠ると、私の寝言に弟が首尾よく寝言で返事し、私は夢にいた。入れ代りに起きた弟の導き声を頼りに、目覚めるべく流星の欠片を探す。
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051-075
嗅ぐ/衛星/基礎(イェソド)
関西方面の言葉遊びとして名高い「チャウチャウちゃう?」に「チャウチャウちゃうんちゃう?」という上位版があることを知ったのはつい最近だ。チャウチャウに似て非なるソレはそもいかなる犬種か。ポメラニアンか茶色いプードルか。いやタヌキ、熊の可能性もある。未知の生物か、無生物かもしれない。
恋う/絵の具/表現(アッシャー)
少年は落し主不明の鉛筆や消しゴムを拾うのが好きだった。それらを机の上に広げて出かけ、帰ると自由帳が山やら公園の絵で一杯になっている。彼らが自分で描いた絵へ遊びに行くのだというのが彼の説だ。確かに絵はどれもタッチが異なるが、彼が自分で達者に描くのを見た人も大勢おり、真相は判らない。
和む/鉄/技(アーツ)
柄長の巣に托卵された郭公の卵は黄身が二個だった。小さく生れた双子の雛は他の卵を押し出せず、卵に乗られ瀕死で仮親に助けられる始末。結局卵は次々孵り、熾烈な餌争いを制した柄長が皆巣立っても双子は飛べない。翼より先に声ができ巣の中で鳴く双子を時計職人が目撃、以来彼の鳩時計は鳩が二羽だ。
喜ぶ/栞/正義(ジャスティス)
家にいた時分、叔父は私の歌で紙人形を幾つも踊らせた。童謡も組体操も彼らは健気に躍り、幼かった私は熱心に「稽古」させたものだ。復員後叔父は毎晩魘され、様子を見た父を廊下まで吹っ飛ばしてしまった。「能力」の底力に恐れ戦く私を慮って彼は家を出、戦場や収容所でさせられた事を今も語らない。
嗅ぐ/精霊/正義(ジャスティス)
街灯という街灯がみな花になった。植物たちに苦情を言うと、夜間明るすぎて眠れないと返され、ぐうの音も出ずに暗い道を帰る。大通りは紫陽花、郵便局の横道はツルバラ、踏切の先は山吹。湿った大気が微かに含む匂いを追って日ごと鼻に物を言わせるうち他の事物の気配も知れ、それきり街に街灯はない。
懐かしむ/階段/戦車(チャリオット)
戦後、戦車は鋳潰され鉄塔の階段となった。休日には人々が歩いて昇る。家田畑を踏み潰した身には罰と思えた日もあるが、ひとの命を支えるのに変りなく、今度は奪わずに済む。何より甦った街の眺望は好きだ。ある時鉄塔が一枚の写真を受信した。一面の花野に埋もれる錆びた戦車。よう同胞、悪くないね。
戒める/幻/恋人たち(ラヴァーズ)
狐なので人語は解さないが心を読め、良人の姪が訪ねて以来良人に茗荷を出している。想う人を狐に取られ望まぬ結婚を控え、姪は自分に一服盛ろうとまで思いつめたらしい。良人を返そうと思ったが離れ難く、せめて自分を忘れさせたかった。だが同じく心を読める良人が噛む花の名…勿忘草を狐は知らない。
びびる/マグカップ/王冠(ケテル)
徹夜明けの入稿日、全力の手から消しゴムが緑茶に着弾。水面の王冠が伸び人影となり、手には金銀普通の消しゴム。疲れた頭は古いCMを連想、呟いた「はごろもフーズ」。途端部屋が缶詰で埋まり、腹拵えに開けた桃が原稿に落下。再び現れた影「落し物は?」「原稿」かくて原稿は戻るも消しゴムがない。
愛憎/梅/基礎(イェソド)
山奥の叔父の家にはこのところ狐が出るらしい。夜中ふと目覚めた両脇の下に丸々と眠っていたそうで、朝には二匹とも居なかったよと暢気この上ない。庭先の梅が二本になったり縁側を仏像が塞いだりは序の口で、と聞くそばから訪れた二人の幼児に見事な尻尾があり、腰を抜かす私の側で叔父はすまし顔だ。
飲む/彗星/吊るされた男(ハングドマン)
一年一度しか会えない織姫と彦星、彼らは幸いだ。心中で生き残った僕は天の川の補修材料集めを言い渡された。星の欠片を飲み宙へ放たれる時、地上へ生れ変った恋人の産声がした。七十六年の長旅で体内の欠片が長い尾となり尽きる頃、集めた材料と引換えに、地上の一生を終えた彼女の笑顔が僕を迎えた。
嫉妬/ミルクココア/隠者(ハーミット)
山奥の叔父の家に場違いな白無垢が下がり、見知らぬ娘が無表情に座している。狐さと叔父は事もない。天気雨で中に引っ込んでいると戸を叩く者があり、開けたら花嫁行列が不束者ですがと頭を下げたそうだ。連中の悪戯を笑って咎めぬので見込まれたに相違なく、唇を噛んだ膝上で土産の菓子が融けてゆく。
愛しむ/お菓子/醜悪(カイツール)
山奥の叔父は私の牡丹餅に相好を崩し、案の定重箱を狐娘に預けた。彼女はぺこりと一礼して下がり、程なく奥から三匹程が重箱をあさる音。弟妹狐だ、迂闊にも忘れていた。毒餅などやめて本当に良かった。総身に冷や汗で顔を上げると叔父と目が合った。途端、何かが私の中で切れ、どっと涙が堰を切った。
噛む/スカーフ/王国(マルクト)
王様は王国のただ一人の国民だった。ある寒い年、王様は小さな王国をくるくる畳んでポケットに入れ旅に出られた。寒い世界を旅して他の王様方と会い、王国を寄せ合って布団代りに被られた。そこへ他の動物や花も入ったので王国は暖まった。その祝いのご馳走、土台に色々寝かせて温めた物が今のピザだ。
眠る/髪飾り/技(アーツ)
明け方、横の妻はまどろんでいる。枕に波打つ髪の合間に彼女の夢が覗いていた。夢の中の妻は職人で、細かなモザイクタイルを一心に並べている。その模様を見たく、そっと髪を除けた。夢の妻が顔を上げ、ばちりと目が合った途端その姿は霧散し、妻が目覚めた。朝食に出た新しい皿はあのモザイク模様だ。
後悔/桃/美(ティファレト)
山奥の叔父と狐が帰るのを見送る。猫じゃ猫じゃと仰言いますが…ほろ酔いの叔父が踊る。夜風は頬に快く、満月が綺麗だ。婚約者の失踪に周囲が沈む中、お前は優しいから良い人に出逢えるよと叔父は言う。私の本命は叔父だ、それも狐と幸せで居る叔父だ。オッチョコチョイのチョイ、宵闇に手指が翻った。
好奇心/魚/知識(ダアト)
マグカップのコーヒーから魚が顔を出した。新たな環境を知るべく留学中とか。もってこいの場所があると煮え立つ鍋に誘導したが、悪くないですねと動じない。程よくダシの取れた鍋をつつきながら聞くと、彼らの留学先は津々浦々に及ぶとか。備えあればですよと言う魚の視線の先に、隕石接近の新聞記事。
勇気/廊下/塔(タワー)
アパートの裏は寺、通りの向いは自然公園で、七階の自室ベランダのすぐ外は野鳥の通り道だ。ある晩外からぼそぼそ話し声「公園の椎の樹を伐るそうだ」「雛をどこへやろう」。なら来いと夢うつつに言った翌朝、ベランダにぎっしりと鳥の巣。抜けた羽を礼に貰い、布団に詰めた晩から自在に飛ぶ夢を見る。
歩く/角砂糖/根源(アツィルト)
この葡萄はすっぱい。果実に届かなかった三匹の狐はうっかり漏らした愚痴で負け惜しみの汚名を着た。一匹はハードルを下げ、落としやすい砂糖椰子を採った。一匹は視点を転じ、地に成る苺を採った。一匹は発想を変え、小麦を自分で育てた。かくて三匹の開いた菓子屋は人間の知らぬ所で大繁盛している。
怪しむ/帽子/宇宙(ユニバース)
舞台に上がった手品師の帽子の穴から鳩の尻がはみ出ている。笑い転げる客をよそに彼は兎や旗やトランプ等次々出して喝采を浴びたが、鳩だけはついに出なかった。楽屋で訊くと彼は無言で帽子を見せた。中には渦巻く大銀河。全宇宙がこの中に入っており、穴の「詰め物」を抜くと漏れてしまうのだそうだ。
好奇心/ガーネット/運命の輪(ホイールオブフォーチュン)
その村は建築物から行事風俗まで伝統の宝庫だ。が、どの世帯も五代前から昔の祖先は具体的な名前も家族構成も一切伝わっていない。家系図等は散逸し、古老の記憶も自らの祖父母辺りが限度で、まるでそこから村が始まったていだ。最近開発で伐採された近辺の巨木は皆、百五十年前付近が明らかに赤黒い。
吐く/鉱石/星(スター)
両親が鉱山労働者で、私は地底を遊び場に育ち鉱山へ勤めた。仕事上りは夜で、頭上はいつも銀河だ。ある日坑道で拾った石は星に似て、なぜか私はそれを呑み終生吐かないと誓った。死後、微かに光る石に導かれ、着いた先には一人の男。憶えがある、前世の恋人だ。彼は天、私は地を巡り、また逢ったのだ。
舐める/呪文/宇宙(ユニバース)
どうせ一番旨いのが毒なんだから気にせず食えと父が笑う。夥しい皿小鉢は山海の珍味が山盛りで、只一つ毒入りを当てねば家を継げない。匂いに辟易した目に留まる白飯、これか。生唾呑んだが堪え、ハンバーガーに手を伸ばす。旨い毒だ。頷いた父が口へ運ぶ盃、それを僕は奪った。一番旨い毒、盗み酒だ。
泳ぐ/骨/慈悲(ケセド)
拾った万年筆が勝手に動き、絵を描き始めた。よく見るとどれも恐竜やら巨大魚類等の生物だ。訊けば万年筆でなく億年筆で、インクは絶滅生物が変質した石炭製とか。まだ絶滅していない生物は描けないらしいが、昨今消えたピンタゾウガメは出てきた。ドードーの絵がない事実は墓まで持って行くつもりだ。
眠る/真鍮/醜悪(カイツール)
数億年前の地層から眠りが発掘された。土と混ざって陶器に焼かれたそれは牢獄に支給され、それで食事した囚人達は数億年分熟成された眠りを毎夜楽しむ様子で、それきり刃向かう者は出ない。次いで軍にも支給されたが、兵士達が明らかに戦を嫌がるようになったため、打開策として敵国に大量輸出された。
吸う/指/魔術師(マジシャン)
狐なので総大将には逆らえない。十里四方の狐という狐が集う中で、人の姿の総大将は自分を無造作に掴み上げ哄笑した。相手の心を読み、心を読まれたのを悟り、仰天した。彼こそ良人の姪の許婚なのだ。先の戦で良人をぼろぼろに使い潰した上官がこの男だと、今も良人を苛む悪夢を読んで狐は識っている。
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076-100
安心/菊/不安定(アィーアツブス)
大嵐が去ってみると土地はすっかり駄目になっていた。幸い残った種や苗をかき集め、無事な近所に別れを告げてその地を去った。全財産はリュック一つ分でしかなく、空は抜けるように青い。かねて聞いていた原野は眼前遥かな花畑だ。無くした訳ではない、移ったに過ぎない。地面にぐっと苗の根を埋めた。
這う/手紙/残酷(アクゼリュス)
カモメカモメカチンカチンをカ抜きで言え。昔、女子を冷かした僕は「スモミスモミスパイスパイをス抜きで言え」という反撃に沈んだ。時経て今、息子の謎々「五千円札を百枚隠した場所は」に百葉箱と即答した妻は「一冊五千万円の本の題は」と吹っかけた。黙る子に「万葉集」と返す妻の笑顔は昔通りだ。
見る/薔薇/醜悪(カイツール)
雨は嫌いだ。傘に篭って道行く人が人に見えない。ある傘はその下に一叢の薔薇を咲かせ、別の傘は二本脚の兎を宿し、或いは見知らぬ街並みを覆い、静々と雨中をゆく。それが各人の前夜見た夢の有様と知ったのは、傘の下の友人が化物に見えた日だ。見た夢を憶えていられないこの私はどのような姿だろう。
贈る/箱/女教皇(プリエステス)
最近風呂の水の減りが早く、更に浴槽で冷やしていた西瓜が皮の切れ端を残して消えた。立ち尽くす眼前の浴槽からにょろりと小さな龍。聞けば隣が風水に凝って脈が通じ、この浴槽も水飲み場になった由。残り湯よりはと西瓜を出し続けたせいか予期せず高級果物ゼリーの中元が来たが何故か龍が物欲しげだ。
疑う/菫/理解(ビナー)
強盗集団が旅客機を乗っ取るも宗教原理主義テロリストが反撃、抗争勃発。乗り合わせた大国特殊部隊員は共倒れを目論むも露見、手を結んだ二つの団体を敵に回す。狂乱の機内を最後に制したのは座席で息を潜めていた少数民族の独立運動家だ。がパイロットに化けた独裁国工作員により、独裁国へ急ぐ機体。
切ない/ピン/月(ムーン)
岬天文台が今日で閉館だ。元は小さな灯台で二階が資料室、三階がプラネタリウム、四階が展望天文台だ。家庭用3Dプラネタリウムが普及し、客など僕ぐらいなのに嫌な顔もされなかった。一階売店で灯台の形の遠華鏡を買い、珈琲片手に四階から夕暮の街を覗いた。手の中に満天の星星が、岬天文台がある。
勇気/湖/女教皇(プリエステス)
狐なので連れ合いに何かあれば判る。どっと脳に流れ込むのは良人の苦痛だ。ああ、あの人が殺される。床でのた打ちながら声を上げると、自分を抱き上げる腕。良人の姪だ。途端じわっと楽になった。まさか、これが彼女の能力か。考える間もなくその能力をそのまま良人に流した。どうか間に合いますよう。
楽しむ/杯/欲望(ラスト)
狐なので小豆飯が好きだが人間が食糧難とかで小豆が手に入らない。その代り鼠だけはそこら中にいるので、鼠の天ぷらが新しい好物になった。ただ衣つきの鼠を遠くから油にぼちゃんとやって毛皮を焦がして以来、揚げるのは良人の役目だ。自分は山菜ばかり食うのに嫌な顔もせず弟妹の分まで揚げてくれる。
戒める/レコード/調整(アジャストメント)
祖父の日記は日々の雑感も俳句やスケッチもさらっと軽妙だ。が、次第に文も絵も別人のように仰々しく硬く変貌し、終り近く「見るな、見るな、見てはいけない」と殴り書きの後は憑物が落ちたように元の筆致だ。訊けば当時いた文芸愛好会全員が同じ症状で解散した日、巨大な烏が飛び去る幻を皆が見た由。
飽きる/煙草/理解(ビナー)
夢を見た。びろうどの椅子に女がゆったりと掛けている。口に運ぶ煙管と見えたのは薔薇の茎で、先端の蕾からは一息ごとに濃密な花の香がにおう。ついに噎せ返って目が覚め、サイドボードの水差しに手を伸べて気付いた。敷布の薔薇の刺繍がほつれて紅い糸がひとすじ、長々とベッドの枕頭まで伸びていた。
悪態をつく/窓/皇帝(エンペラー)
家の鍵を無くした。仕方なく友人宅に一週間泊まり鍵を換えて帰ると中に痩せた貧乏神がいた。留守中に非常食を食い尽くしており、お帰りなさいませ何か作れと図々しく三つ指つくのを放り出したが、独居会社員で定時に帰れるのはお前位だから行く宛がないと、どっちが不幸か判らないような事を言われた。
懐かしむ/拳/女教皇(プリエステス)
草木も眠る午前二時、古井戸だった防火水槽から幽霊が現れ、一枚二枚と皿を数えて恨むので、新たに一枚目を数えた時を狙い今何時だと訊いてやった。相手が二時と答えれば三枚、四枚…で十枚になる筈が、丑三つ時と答えたばかりに十一枚になり、キレた幽霊が防火水槽の縁で皿を全てぶち割り、無事成仏。
抱きしめる/約束/星(スター)
狐なので人間の街は不案内だが良人が心配で後をつけた。が、街の入口でバテたため良人に気付かれた。何か閃いた良人はひょいと自分を抱えて胴を風呂敷で包み、人間の赤子のていであやしつつバスに乗る。可愛いでしょう僕に似てますかと堂々たるフカシに、他の客は正しく狐につままれた顔で目をこする。
不満/わた飴/根源(アツィルト)
収入源の薬物が次々違法化、弱小暴力団は商店街のみかじめ料に目をつけた。先兵の若衆は手芸店の美人店主に参って二階の刺繍教室に入会、先輩生徒たる中年刑事との二人教室となる。学習力の若衆と練達の刑事が死力を尽くして技を競った作品展で暴力団と警察の銃撃戦が勃発、二人は教室死守に共闘する。
傲慢/オパール/根源(アツィルト)
昔の部下と呑む。思い詰めた顔で、口を付けた酒が減らない。こいつの能力は人間の中でも強く、その姪を娶ってこいつも配下にすれば狐と人間双方を支配出来る。が、大戦中死ぬ程上下関係を叩き込んだにも関わらず姪のために逆らう気らしい。話し出そうとした部下の頭がぐらっと揺れる。毒酒だ、莫迦め。
切ない/鉱物/貪欲(ケムダー)
夢の中の物を決して持ち出すなとあれほど禁じたのに息子が小石を蓄えていた。死んだ妹が川辺で積み重ねる物だそうで、こちらで鬼どもに壊されずに積むのだと言い張る。あちらの物を持ち出したら替りに何かがあちらへ行くのだ。それが証拠に、私の左の目と耳が冥い河原で泣く娘に釘付けのまま離れない。
憎む/骨/無神論(バチカル)
熊と狐と猫は友達が欲しく、倒木が動いて松の木坊やとなった時は喜んだが、すぐ悲しんだ。彼を熊は自分より強いと言い、狐は賢いと言い、猫は優しいと泣いた。坊やは自分が火に弱く頭が固く肌が粗いと言い、雷に撃たれて燃えた。悲しんだ三人が消炭で坊やの絵を描くと坊やは甦り、今度こそ皆で遊んだ。
諦める/衛星/愚鈍(エーイーリー)
山奥の叔父含め家族で婚約者と対面中だが、実感が湧かず相手の顔を盗み見る。端正な造作の為か叔父より年上な為か、私へ微笑む顔はまだ冷たく思える。やあ奇遇だ、戦争中、彼は部下でね。婚約者が叔父へ目を遣り、叔父がご無沙汰でしたと一礼する。その表情が常の叔父に似ず重いのも思い過しだろうか。
悲しむ/帽子/魔術師(マジシャン)
狐なので人間の大戦は話に聞く程度だ。その時分少年兵だった良人は異国へ引っ張られ、能力者だけの秘密部隊に置かれた。始め前線で盾に使われたが、護れる範囲に限度があった。逸らした弾が別の仲間に当たってね、その人らの断末魔が次々押し寄せてくるんだ。彼のそんな記憶に狐は決して深入りしない。
噛む/麦藁帽子/太陽(サン)
狐なので夏の帰省先は狐穴だ。所用で街に下る良人の帽子を見送り、ネズ天を提げて帰ると、巣立った弟妹もみな戻っている。集会が近いからで、天ガ下の狐をみな眷属とする総大将がこの山に来るのだ。総大将は普段人間の世界に暮らしており、しかと姿を見た狐はこの山にはない。先の大戦にも出たそうだ。
冷静/楽器/創造(ブリアー)
今までにない音の楽器を七日で作らねば死刑だと王に脅された職人は何も出来ず期限を迎えた。御前に召し出された彼は口八丁、楽器はご寝台に誂えますと言った。横たわった王はお楽にと言われ眠り込み、職人は窓の詰物を抜いて逃げた。隙間風で熱の出た王は夢に風を天の楽と聴き、幸せに息を引き取った。
びびる/金木犀/恋人たち(ラヴァーズ)
山奥の叔父が私の婚礼で家へ来た。狐も一緒で、婆やは鼠を捕るならと鷹揚だ。明後日に宴を控えた夜、叔父に呼ばれた。今から出かける、式までに戻らない時はこの手紙を兄に渡してくれ。決して狐の側を離れてはいけないよ。叔父はそのままふいと家を出、狐がじっと見送る夜道に金木犀が濃く匂っている。
偲ぶ/方位磁針/無感動(アディシェス)
方角を失い妙な山村へ迷い込んだ。村人は皆赤い帽子を被った子供、小さな家々も赤い丸屋根だ。ここの事は内密にと頼まれたが下山後つい話してしまった。と、女が幾人も山へ入ってゆく。間引いた子や夭逝した子が住む村の伝説があるのだ。件の場所に村はなく、赤い笠の茸が一叢。食うと子供に会える由。
掴む/彗星/美(ティファレト)
大手各社の格安方針で仕事が激減し、俺達の零細航空会社は別業界に活路を見出した。天国と契約し、あちらの列車を走らせるための線路―飛行機雲を敷くのだ。そこを走る列車はあちら行きの客車が主だが、俺の担当便は貨車だ。前を飛ぶ俺にはあまり見えないが、夜毎満載の星を撒きながら走る様は壮観だ。
勇気/湖/女教皇(プリエステス)
狐なので連れ合いに何かあれば判る。どっと脳に流れ込むのは良人の苦痛だ。ああ、あの人が殺される。床でのた打ちながら声を上げると、自分を抱き上げる腕。良人の姪だ。途端じわっと楽になった。まさか、これが彼女の能力か。考える間もなくその能力をそのまま良人に流した。どうか間に合いますよう。
切ない/階段/醜悪(カイツール)
昔の部下が息を吹き返した。心を読み舌打ちする。女共め。全員潰そうと部下の顔面を掴む、その手の下で奴が笑った。こいつ、こんな貌が出来たか。だが遅く、流し込んだ能力は狐妻を通じ天ガ下の狐全てに分散されていた。総大将ハ狐ヲ襲フ可カラ不。掟を破った報いに狐達の能力がどっと流れ込んでくる。
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