140字三題噺 -3rd season 続き物まとめ1
曇天の街の女と男の話
青/煙/数式
彼女が真っ青なコートを着せられたのは短気なせいだ。曇り空の多いこの街には始終かっかと火を吹く彼女は熱過ぎた。これで落ち着くだろうという周囲の声に彼女の苛々は加速度的に増す。あたしはぱっと明るい赤がいいのに。と、街ですれ違う一人の男。曇天にも鮮やかなそのコートは彼女の焦がれた赤だ。
赤/雨傘/数式
彼が真っ赤なコートを着せられたのは泣き虫のせいだ。始終べそべそ湿っぽい彼は曇り空の多いこの街をなお暗くした。これで気も晴れるだろうという周囲の声に反比例して彼の嘆きは増す。僕はしんと静かな青がいいのに。と、街ですれ違う一人の女。曇天にも艶やかなそのコートは彼の望んでやまない青だ。
黒/マフラー/恥ずかしい
出会った瞬間、彼女と彼は互いを理解し、二着のコートが即座に取り替えられた。赤をまとった彼女の短気も、青をまとった彼の泣き虫も相変わらずで、周囲は落胆したが、二人は相手の服の色が見えた方が便利じゃないかと意に介さず、今日も一対のコート、お揃いの赤青縞のマフラーで曇天の街を闊歩する。
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ゲーム好きな幽霊と客の話
深海/犬/ジキルハイド
嵐の夜に迷い込んだ荒野の幽霊屋敷で望外な歓待を受けたが、気難しそうな老主人はチェスで三度勝たねば帰さないという。受けた勝負で手も足も出ず、このまま地縛霊化を覚悟したが、主人は意外にも手取り足取り教えてくれる。老執事囁いて曰く、主人は無類のゲーム好きだが訪う客とて無く成仏できぬ由。
黒/伊達眼鏡/ジキルハイド
特訓の甲斐ありついに幽霊屋敷の主に三勝したが、彼は成仏どころか好敵手との別れをやたら悲しむ。仕方なく再訪を約して帰ったその日から烏や黒猫が催促の手紙を付けて続々来訪、観念して友人一同引き連れ流行りのボードゲームを持参したところ大喜びされ、徹夜勝負となったがテキは幽霊、眠気が無い。
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地縛霊 vs 大家 vs Gの話
かくれんぼ/いじわる/癖
生者の怨念が死者の成仏を妨げたのは史上初ではないか。事故死した僕を引き留めているのは僕が汚部屋にした賃貸の大家で、怒りの圧が人間と思えない。命令通りGの棲家たる食品ゴミの山の処分にかかったが、殺虫剤を食らったGが僕を尻目に次々昇天、羨ましすぎて僕が引き留めたらしく全Gが地縛霊化。
嘘/いじわる/ぽつり
今日中に何とかしないとGと同居で地縛霊化させるとの大家の仰せ。死んでも嫌だが僕が死に切らねばGも居残る。頼むから成仏させてくれと大家に土下座しG共々あの世へ赴いたが、門番は僕を審判の列に並ばせGを易々通す。人間以外は無条件で極楽行きだそうで、羨ましすぎるが流石に引き留めは無効だ。
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雨雲を曳く話
身長/雨傘/幸せ
日傘はお洒落のひとつなのよと言っていた祖母の死因は記録的酷暑による熱中症だった。研究のすえ特殊な雲を開発した私の研究所は豪雨に苦しむ地域の協力を得てその地域を低い雲で覆った。降りしきる雨を全て受け止めた雲を両地域の人足が私の街へ曳いてゆく。二つの言葉の掛声は不思議にぴたりと合う。
ナイフ/日傘/ペダンチック
雨の降る直前の匂いが好きだと言っていた姉は洪水に流されて行方が知れない。渇水の地域のすごい機械が作った雲は豪雨を受け止め、僕らはそれをあちらへ曳いていって乾いた湖へ放り込んだ。あっという間に湖は満たされ、溢れた水は地を割って田畑へ流れ込む。姉ちゃんもどこかで笑ってればいいけれど。
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願いを叶える悪魔と男の話
嘘つき/十分間/災い転じて
十分だけ願いを叶えるという悪魔に、彼は三十年前の十分を指定した。家族旅行に出かける時間を十分遅らせたのだ。結果飛行機に乗り遅れた一家は墜落事故を免れ、彼の家族も死なずに済んだ。が、キャンセルした航空券を取って全員亡くなった別の家族の一人はそののち彼の恋人となったはずの少女だった。
制服/金髪/三秒間
笑いの止まらない悪魔は、駄目推しに三秒間だけ願いを叶える約束を彼に持ちかけた。考えに考えた末、彼は十分前の三秒を指定した。悪魔は髪を逆立てて怒ったが約束には従うしかなく、結果この話の作者はこの話を書く途中の三秒間悪魔の設定を忘れ、悪魔は書かれないまま物語は進み、誰も死ななかった。
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瓦礫の星と蝶の話
蝶/ピアス/駄目なひと
現職は広大なゴミ屋敷の清掃だ。何せ宇宙戦争で住民が全滅した星を丸々片付けるのだ。狭い星じゅう瓦礫だが短期間で壊滅したためさほど汚染はなく、環境汚染で母星を壊した我々地球人が紹介された中で唯一マシな移住先なので是非もない。こんな地にも生態系はあるらしく、蝶一匹がまるで灰燼の宝石だ。
不幸/ピアス穴/バタフライエフェクト
瓦礫撤去が半ば済んだ星を宇宙政府は他に移れという。例の蝶は地球由来の希少種で、地球では汚染で既に絶滅、宇宙でも希少性から奪い合いが戦争になった由。この星は蝶に与えられ、地球人始め全宇宙人立入禁止となる。人類への、これは蝶の復讐か、旧星人の呪いか。何も知らぬ蝶の飛び立つ姿は美しい。
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夜のシャチとおばあちゃんの話
カーテン/餌付け/迷宮
巨大なシャチが夜のビル街を回遊する。ひとけのない都市は石の灰色で、シャチが時折覗く窓はみな暗い。ビルの谷底にぽつんと点るのは旧い家の灯で、暮らすのはおばあちゃん一人だ。おばあちゃんが猫三匹を寝かしつける布団の横の柱には越冬中のテントウムシたちが固まり、猫と同じ枯葉の夢を見ている。
深海/窓際/災い転じて
シャチを知っているのは猫とテントウムシの他はおばあちゃんだけで、おばあちゃんはシャチを人間の次の世のさきぶれと考えている。ほどなく、おばあちゃんが電気を消した屋根の上をシャチが泰然と行き過ぎる。じき暖かくなればおばあちゃんはテントウムシたちを窓から日なたの側に出してやるつもりだ。
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極北の学校の話
首筋/キス/夜は短し
三重ガラスの防寒窓一面に白い夜が渦巻く。学校のホールは暖かく、背後のパーティはたけなわだ。地元の子は皆この後帰宅だが、私たちは同棟の寮に残る。それでも元首都の子は友達も多いが私の出身地の子は他にない。巨大災害でこの国の居住適地はここだけ、雪嵐の奥にその原因の巨獣が美しく闊歩する。
首筋/葉っぱ/はじめて
私達が首の皮一枚で生きているのは南北に長いこの国の最北端、この地の極寒のおかげだ。数十種に及ぶ巨獣のうち寒さに強いのはごく一部。辺境といわれたこの街に生存者が集まり、唯一の学校もそれなりの規模だ。吹雪が切れ、地元の子が一斉にバスに乗る。バスが下る先の街灯りが窓の遥か下にちらつく。
首筋/茶髪/トランス
南方の私の故郷で温泉が出て水脈が変わり、地底の巨獣が現れた。迷惑客に飛び乗られた一頭が暴れ出し、駆除が逆に巨獣の大侵出を招いて今に至る。巨獣と人を慣らし、徐々に巨獣を制御し共存を図るための人材育成が巨獣学科の主目的で、山中の寮の露天風呂は、真下の温泉につかる巨獣の頭と同じ高さだ。
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独裁敗戦国の忍者の話
かくれんぼ/いじわる/癖
敗戦国の武装解除は今や帝国の難題だ。敵の忍者のほとんどが投降せず抵抗を続けているのだ。敵国は小さいが強力な独裁体制で、擁する忍者には少年も数多い。という事の意味を帝国の忍者は思い知っていた。今追う忍者二人はどう見ても自分の歳の半分だが腕はすさまじい。キャリアが自分と違わないのだ。
かくれんぼ/煙/猫も杓子も
ゲリラを大半捕らえてなお帝国忍者隊の安らがぬ日々は続く。逃走中の残党に最重要標的…腕利きの火付者と山駈衆がいるのだ。火付者は街中で騒乱を煽り外敵を引き込む忍者、山駈衆は包囲網を突破し伝令・逃走補助を担う忍者だ。件の二人に帝国は幾度も煮え湯を飲まされ、先日も追手が死体で見つかった。
怒らないで/キス/胸元
帝国は結局、最重要標的の忍者二名……火付者と山駈衆の指名手配を解かざるを得なかった。手配書を出せば署名した者が即日討たれ、現場が怖気付いたのだ。以来両名の行方は杳として知れず、死んだとも他領へ逃げたともいう。あるいは身一つを自身の国土とし、帝国内の独立国となり暴れ回っているとも。
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