140字三題噺 -3rd season 続き物まとめ2
仁義なき二家族野球バトルの話
嫉妬/金髪/駄目なひと
「一家で野球をする」が父の口癖で、当然の結果として僕らは九人姉弟だ。その父にひょんなことから隠し子が発覚、問い詰めるとあちらの兄妹も九人だという。ほら試合には二チーム要るだろという言い訳の途中で怒髪天の長姉が父をぶっ飛ばし、泣き崩れる母に寄り添う子供一同、修羅か般若の面相である。
嫉妬/茶髪/ひとりぼっち
ともあれ双方全員で対面、母親二人も加え二チーム対戦へと雪崩れ込む。あちらの兄妹九人のうち二人は幼児とてなぜか僕が貸し出され、情け無用の九回勝負が開幕。頼んでもいないのにジャッジに立つ父の開口一番「プレイボォォーイ!」を怒髪天の長姉のバット、あちらの長兄のボールが物理的に黙らせる。
薬/日焼け/自己防衛
六回を終え勝負は一進一退、火花散る熱戦どころか艦砲射撃の応酬である。僕はと言えば試合を追うのもやっとの運動音痴、敵(実家)の支援どころかよりによって飛んできた長姉のエラー球を味方(他家)の長兄怖さに見事キャッチ。お兄たんスゴい、味方(他家)の幼児二人に和む僕に長姉の拳がめり込む。
ベッド/日焼け/ペダンチック
布団に寝転ぶ僕を幼児二人が踏んでマッサージしてくれる。結局15回引き分け後、両家は我が家の居間で親睦雑魚寝お泊り会だ。蓋を開ければ僕一人が両家の長子に殴られまくる展開で、抗議すると、要領の良さが父に似てると全員が即答。災い転じて福と成せ、いい事言った風の父を幼児の暴投球が捕えた。
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仁義なき猫対犬の話
煙草/乾き/シュレディンガーの猫
家の老猫が隣の犬を呪うとか。追いかけ回され車に撥ねられかけたからだそうだ。どこで覚えたのか尾を二股に割りドロドロ言う煙幕付きで突撃していったが、大喜びで尻尾を振るテキに迎えられ、尾の数が自分より圧倒的に多く見えるとの理由であえなく敗走。屈辱で霊力が増しており別の意味でなんか怖い。
嘘/白衣/猫も杓子も
何に倣ったか尾を九本に増やした老猫が隣の犬にリベンジを計る。が、やはり大喜びで出迎えたテキは誰に習ったか頭が三つに増えており、三つの頭に尾を三本ずつ追われて現場は大混乱である。ほうほうの体で逃げ帰ってきた老猫は作戦を変えるとかで僕の部屋にこもり、何やらブツブツ本を読んでいて怖い。
かくれんぼ/煙/猫も杓子も
何で読んだか老猫が隣の犬小屋の鋭角の屋根に狙いを定め、そこから青黒い煙が立ち昇るや犬を置いて脱出。しかしテキは鼻の効く生物のこと、刺激的な悪臭が漂いだすや三つの頭でハクションを連発、風圧と鼻水で煙はあえなく霧散した。物陰から一部始終を目撃した老猫はついに全面対決を決意。もう怖い。
月/マフラー/シュレディンガーの猫
いつの世のつもりか、月夜に老猫は正体不明のヒーローよろしくマフラー姿、隣近所の猫共お誘い合せで出陣。迎える犬が月光に吠え、方々の犬共も呼応し正に一触即発。しかし犬を嫌う猫の気持ちと猫と遊びたい犬の気持ちが重なって両立、めんどくさくなった猫が解散して無効試合。老猫が不貞腐れて怖い。
カーテン/茶髪/猫かぶり
やけになったか老猫が正攻法とて隣家にカラ身で突撃。犬猫交えてギャオンギャオンが始まった。と、出てきたのは隣家の美人お姉さん、「あらあらどうしたのー」の声に犬猫同時にお腹を出して全面降伏。臆面もなく可愛がられる姿を窓から呆然と見る僕に気づいた老猫が睨んできた。次の標的は僕か。怖い。
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喪われた民の遺物の話
かくれんぼ/カッター/三秒間
ナイフの柄に彫られた祖先のトーテムは私の代で意味を失うのだろう。どこかから来た人々に追いやられ私たちが移住した先は疫病の巣で、全員を滅ぼすのに時間は要らなかった。ナイフを地に突き立て、私は力尽きるまで祖先の来歴の歌を囁き続ける。ナイフは墓でなく、聴き役でもなく、私たちそのものだ。
メモ/いじわる/三秒間
女王が意に沿わぬ村を罰したのは事実だが、石臼で村人全員を挽いたなど流石に嘘だ。手間が大きすぎるし働き手も減る。その成り行きを記した書は滅ぼされ、そもそも言葉も禁じられた。読む者とて無い石碑のかけらはビル街に埋もれ、また別の戦で焼かれては掘り返され、埋もれを繰り返し幾星霜かになる。
煙草/爪/七転び
莨入れは借金のかたに取られた。本来は身の周りの品を全て自分たちで作り、金銭など必要ない暮らしだったのが、それを野蛮と言われ貨幣経済に巻き込まれた。莨入れは父の父のまた父から受け継いだもので、熊の神の来歴の物語が文様で描かれている。借金取りは何と言ってあれを子に受け継ぐのだろうか。
財布/悪趣味/やきもち
地元に伝わる文様はもはや観光資源であり、主に多数派民族が製造権を握っている。かつて手縫いされたそれらを今は大工場の機械が大量生産し、果てはAIが流行りに合わせた新柄を考えているそうだ。古ぼけた色の巾着は祖母の手縫いだが、図案はどこかの会社に特許を取られ、絵柄の意味を知る者もない。
ベッド/ポケット/七転び
古着屋で買ったバッグはエスニックの布製で、何色もの太い糸がジグザグ模様を織りなしている。古物市で買った品々を入れたところそれらが喋り出し、僕が完全な話を覚えるまで黙らないという。いずれも文字を持たないか文字の現存しない言葉で、僕はそれらを連れて旅の空に欠けた来歴を訪ね歩いている。
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蒼服の少女と少年兵の話
青/雪/はつこい
幽霊話のある兵舎の物置へ度胸試しに放り込まれた少年兵が翌朝、真夏だというのに凍死寸前で見つかった。なんでも、青服を着た見知らぬ娘に、氷のように冷え切った躰で抱きつかれたそうだ。お前逃げなかったとこを見るとまんざらじゃないなと笑う先輩に少年兵は顔を赤らめ、寒そうだったのでと呟いた。
嫉妬/雪/甘党
やたら物置へ行きたがる少年兵を、すわ憑かれたかと先輩兵士は部屋へ閉じこめた。翌朝は真夏だというのに一面の霜、草花がみな黄色く霜枯れた。彼女の仕業だ、文字を教える約束をしたのに行かなかったからと少年兵が言い、葉を指さした。葉の一枚一枚についた傷は確かに、下手くそな文字にも見える。
黒猫/雪/自己防衛
老兵の話では、昔の政変で失脚した将軍の愛妾の少女が捕まり例の物置で将軍の居所を尋問された。反乱側は新雪の蒼い陰でもって染めた特注の拷問服を彼女に着せたが、彼女が文盲の唖者と判ったのは凍死後だった。猫のように丸まって寄り添う少女の体の冷たさに顔色も変えず、少年兵は文字を教えている。
首筋/小鳥/不意打ち
誰も知らなかったが政変は終わっていなかった。かつての将軍派の流れをくむ者たちが北部で突如叛旗を翻し、首都目指して進軍中という。こちら東部の最果てに報せが入ったのは三日後で、ここまで飛び火はせんだろうと他の兵士は呑気だが、それ以来蒼服の少女を見た者がおらず少年兵はじりじりしている。
制服/小鳥/不意打ち
しかし東部の砦への襲撃は迅速だった。クーデターを察知した現指導部が密かにこの東部を抜けて隣国へ飛んだのだ。兵舎を占拠した旧将軍派は兵士たちに現指導部の行方を吐かせようとしたが、知る者はなく、業を煮やした旧将軍派は見せしめとして戦場の沈黙でもって染めた特注の拷問帽を少年兵へ被せた。
刃物/前髪/不意打ち
首から上を拷問帽にすっぽり覆われ、物みな死に絶えた沈黙を聴かされた少年兵が失神する寸前、縛られているはずの掌に冷たい何かが触れた。何かは手の上をそっと滑る。それが「ゆき」という字なのを少年兵は感じた。蒼服の少女に教えた数少ない字のひとつだ。ゆき。ゆき。死の沈黙は雪の静寂へ変わる。
バイク/前髪/不意打ち
少年兵が拷問帽を外された時、周囲の旧将軍派はみな凍死寸前で捕縛されていた。時同じくして、首都の旧将軍派も同様に凍死寸前で壊滅との急報が届いた。なんでも、旧将軍派はかつて一人の少女を囮に逃げ、彼女を殺したのが現指導部だと、議事堂の壁に氷で拙い文字が残っており、どうしても消えない由。
怒らないで/指輪/不意打ち
少年兵は少女に残りの文字を教えている。何せ教える側も教わる側も素人とて時間が要りそうだ。旧将軍派も元指導部も体制を立て直せず、首都では連合野党が議会制整備中とか。東の砦も解散の噂があるが先行き不透明で、兵でなくなるかもしれない少年兵は少女に掛けた自分の上着を春の陽光で染めている。
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